青春18きっぷ、魅力は「節約」よりも「自由度」だ 途中下車すると、旅がずっと楽しくなる

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静岡県には何の罪もないのだが、延々と同じ県内を、乗り換えを伴いながらひたすら3時間以上乗り通すのはなかなか苦痛であり、名古屋あたりまででも大変なのに関西、もしくはそれ以遠まで行こうとなると疲労感が大きくなるのは当然である。ましてや普段は東海道新幹線であっという間に通りすぎることが多い区間、その比較も相まって時間のかかりようは感覚以上のものとなる。

そこでこういう乗り換えはやめて、時間の余裕を楽しみたい。まず、熱海で降りてみる。かつて新婚旅行のメッカであった温泉街は、昭和の香りを色濃く残す商店街があり、観光客に混ざって土産屋、食堂などを眺めながら散歩するだけでリフレッシュになる。駅前には足湯もあるので、そこで小憩するのもよい。

このように、少しずつ乗る列車を遅らせていき、次の列車は始発を狙うのだ。私はJリーグ観戦が好きでジェフユナイテッド市原・千葉を応援しているため、清水にもよく通っていた。その関係で興津には行きつけの寿司屋があり、大体ここに立ち寄っている。

熱海―豊橋の下りで始発列車がある駅は、熱海、三島、沼津、興津、静岡、掛川、浜松なので、どこか複数の駅でしばらく休むとよい。驚くほど体は楽になる。

ロングシートの車窓はパノラマ感たっぷり

今、ロングシートという車両に触れた。18きっぷで旅していると、どこに行ってもこの車両がやってくることが多くなった。旅好きな人々はロングシートを嫌う向きが多い。確かに窓に背を向けるので景色は眺めづらいし、駅弁はもちろん、お酒を飲むなどとんでもないという雰囲気もある。

そういう私もロングシートとクロスシート、どちらが好きかと問われたら迷わず後者を選んでしまうけれども、本当にロングシートは嫌われるべきものなのであろうか。

ロングシートの車窓はボックス席よりもパノラマ感がたっぷり(筆者撮影)

秋田県や青森県の電化区間を走る普通列車は701系という(一部クロスシート付きに改造されたものもあるが)ロングシートの車両がほとんどである。

確かにこの車両が導入された当初、東北に来たのに通勤電車みたいな車両なのか、とガッカリしたことは認める。けれども何度も訪れるうちにそうではなくなった。今ではこの電車が来ると「ああ、私はいま東北を旅しているのだ」という実感と、愛着すら湧いてくるぐらいになっている。

そして空いているとき、この車両から見える景色は、クロスシートから眺める車窓をはるかに凌駕する。向かい側の広い窓全体にパノラマ風景が広がるのだ。

普通列車は地元の人々の生活路線である。旅行者は邪魔をしないよう、ひっそり片隅にいるのがいいと思っている。自分の気持ちとしても、その土地の人々の日常の中に紛れ込むことで非日常を感じ、なるべく目立たなくしていたい。

旅先でロングシートの車両に乗ったときは、景色は見づらいけれど、地元の人々の話し声に包まれながら、レールの音や振動に身をゆだね、その土地の暮らしにそっと入り込む楽しさや孤独を感じるのもよいのではないだろうか。

八田 裕之 週末旅行家

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はった ひろゆき / Hiroyuki Hatta

1967年生まれ。武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部電子通信工学科卒。JR全線完乗した鉄道ファンにして、Jリーグをこよなく愛する。平日は会社員だが休日はJリーグ遠征で全国奔走の日々。フュージョンバンド「Quiet Village」のリーダーとしてギターと作曲を担当、オリジナルアルバム発表、鉄道コンピレーションアルバム参加など、音楽活動も行う。

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