かんぽ生命が「不適切な保険販売」に走ったわけ 保障性商品への急シフトに現場が追いつかず

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かんぽは医療特約を単品商品として販売できないことや、旧契約を解約せずに新契約に加入できる契約転換制度を持たないことも、こうした規制と無縁ではない。

「郵便局員は商品種類や加入限度額などで、国内生保と比べて明らかに不利な戦いを強いられている。また給与面でも恵まれているとは言えない。こうしたことが過剰な乗り換え勧奨に走らせた要因となっているのではないか」。生保販売現場の事情に詳しい保険・医療・介護ジャーナリストの鬼塚眞子氏はこう指摘する。

ただ、「さまざまな制約があるにしろ、それでいて不適切な販売をしていいということにはならない。政府の間接的な出資で守られている側面はあるはずで、そこに甘えがあったのではないか」と冒頭の国内生保の広報担当者は断罪する。

就業不能や認知症保険を検討する矢先の不祥事

かんぽに対する日本郵政の出資比率は段階的に下がっており、それに伴って商品開発の自由度は増していった。今年4月の日本郵政によるかんぽ生命株の2次売り出しで出資比率は64.48%にまで低下。これを受けて、今年4月には他の生保では普通に扱われている引き受け基準緩和型商品と先進医療特約の販売にようやくこぎつけた。

今後は就業不能保険や認知症、介護などに対応した保障性商品を検討していたが、その矢先に不適切募集が露呈した格好だ。

かんぽと日本郵便は7月から、無保険状態などになっている顧客約2万4000件に対し、希望に応じて契約の復元などの手続きを始める。無保険状態の間に被保険者が入院・手術または死亡したりしていた場合は保険金を支払うとしているが、契約の復活には旧契約の解約返戻金をいったん返してもらったうえで、新契約の保険料を支払ってもらう手続きが必要になる。不利益を被った被保険者・契約者がすんなりと納得してくれるか、簡単な話ではない。

また二重契約期間があった顧客に対しても、重複期間の保険料の返還などに応じる考えだが、約9万件あるとされる契約乗り換えに関しての不適切な販売件数が今後さらに明らかになる可能性がある。

大いに懸念されるのが、こうした顧客ニーズに合わない不適切な販売が契約乗り換えの際だけではなく、最初の新規顧客の募集時にも行われていたのではないかということだ。そもそも保障性商品の販売には、顧客のライフプランをしっかりと聞いてニーズに合った保険を提案するコンサルティング能力が求められる。

こうした能力が身についていないまま販売を急いだとすれば、新規・乗り換えを問わずに保険の募集自体が適切だったのかを検証する必要がある。

かんぽと日本郵便は7月14日、郵便局やかんぽからの積極的な商品提案を8月末まで行わないと発表した。さらに、かんぽの全契約者に対して、意向に沿った契約内容になっているかを確認することも明らかにした。かんぽの既契約者は約2900万人もおり、不適切販売の全容解明にはまだ相当な時間がかかると見られる。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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