かんぽ生命の不正問題は一体誰の責任なのか

この事件は現場を処分すれば済む話じゃない

でももし経営側は遵法を強調していたのに、それに反して現場の営業が法律に反する不正を働いたのだとしたらどうでしょう。それでも現場よりも本部の責任が重いといえるのでしょうか。実はここに不正誘引という考え方が存在します。

この考え方は私が米国公認会計士試験に合格した際に受講したコンプライアンスに関する講座で初めて耳にした言葉です。当時、つまり十数年前にはあまり聞かなかった、比較的新しい言葉でした。

不正誘引をものすごく簡単に説明しますと、例えば会社の倉庫があって、その倉庫にはかぎがかかっていなかったとします。社員はかぎがかかっていない倉庫の中にいろいろな会社の備品や商品が入っていることを知っています。それで会社の倉庫からいろいろなものを盗み出してしまった。それはいったい誰の責任なのかという話です。

コンプライアンス講座を受講した当時、私は、会社のものを盗んではいけないのが自明だから、盗んだ従業員に責任があって、会社はその従業員を見つけて処罰すべきだと考えました。しかし教えられた考え方はその逆で、倉庫にかぎをかけなかった会社がいちばん悪いということなのです。

会社の経営陣は株主から預かった財産を守る義務がある。にもかかわらず倉庫にはかぎがかかっていなかった。それを知った少なからずの従業員が不正を誘引されて会社に損害を与えている。直接会社に損害を与えた従業員も2番目に悪いのは事実だが、いちばん悪いのは従業員に不正を誘引させた経営陣のほうだという教えです。

実はこれは21世紀に入ってコンプライアンスが強化されたアメリカの法律の基礎となる考え方です。よく不祥事が起きたときに経営陣が「私の知らないところで現場が不正を行った」と弁明しますが、その弁明自体を悪いことだと新しくルールで決めたのです。

株主に対しての誓約

あくまでこのルールの適用範囲はアメリカで上場している企業に限った話ではありますが、日本企業でもアメリカ市場で株式や債券が売買される企業にはこの原則が適用されます。そのような日本の大企業の経営陣は実はアメリカの証券取引所に対して「私は社内に不正が起こらない仕組みをきちんと作っています」と宣言してサインをしているので、社内に不正が起きて株価が下落すればアメリカの株主に訴えられるのです。

私はこの考え方は、日本の法律がどうかという話とは別に、グローバルな経営を目指す企業経営者は当然理解し、原則として採り入れて行動すべき基本原則だと認識しています。

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