「人間関係」に疲れ切った日本人を救う働き方 フリーエージェント化を採用した会社の成功

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この理不尽な事態に対して個人でできる対抗策が、会社を離脱するフリーエージェント化ですが、誰もが独立して自分の腕一本で家族を養っていけるわけではありません。そこで、「会社そのものを変えればいいじゃないか」という試みが出てきました。

ここで、ジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンの『NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』から、「穏やかな会社(カーム・カンパニー)」というコンセプトを紹介しましょう。

フリードとハイネマイヤー・ハンソンはソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」を1999年に創業しました。開発・販売するのはプロジェクト・マネジメントツールの「ベースキャンプ」のみで、世界30カ国で54人の社員(メンバー)が働いています。ということは、1カ国に1人か2人ということになります。

ベースキャンプの労働時間は1年を通じてだいたい1週当たり40時間で、夏は週32時間に減らしています。社員は3年に1回は1カ月の有給休暇を取ることができ、休暇中の旅行費用は会社持ちです。

働く時間は1日8時間あれば十分

こんなことが可能なのは、本来、ちゃんとした仕事をするのに1日8時間あれば十分だからです。それなのに、日本人がなぜこれほど忙しいのかというと、「1日が数十の細かい時間に寸断されている」からです。会議や電話、同僚や部下からの相談、上司との雑談など、こまごまとした用事によって通常の勤務時間のほとんどは潰れてしまいます。細切れの時間で集中した仕事はできないので、夜中まで残業したり、休日に出勤して穴埋めしなくてはならなくなるのです。

ベースキャンプでは、それぞれの社員が「開講時間」を決め、1日1時間など、自分への質問はそのときに限るようにしています。そんなことをして大丈夫かと思うでしょうが、緊急の質問は実はほとんどなく、自力で解決できることも多いといいます。「聞けば教えてくれる」同僚や上司が近くにいるから、依存してしまうのです。

会議や打ち合わせなど、他の社員のスケジュールを勝手に埋めることができるシェア型のカレンダーもベースキャンプでは使用禁止です。他人の時間を勝手に分割し、仕事に集中できないようにして生産性を落とすだけだからです。

『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

給与の交渉も時間の無駄だとして、プログラマーであれデザイナーであれ、いっさいの査定なしに、業界の同じポジションのトップ10%が得ているのと同じ額の給与が支払われます。これは住んでいる場所(国)に関係ないので、バングラデシュのような生活コストが安いところで暮らせば、ものすごく優雅な生活ができます。こうしてベースキャンプの社員たちは、自分と家族にとって最も快適な場所に移り住んでいきます。

どうでしょう? これはたしかに特殊なケースでしょうが、会社であっても、創意工夫によって「人間らしい」働き方をすることは可能なのです。

橘 玲 作家

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たちばな あきら / Akira Tachibana

2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。新書大賞2017受賞の『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)ほか、近著の『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)などベストセラー多数。公式サイト http://www.tachibana-akira.com/

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