ハウジングプアが深刻化、家がなければ職探しも困難 《特集・雇用壊滅》

拡大
縮小

公的施設も玉石混淆 住宅政策の再構築が急務

最後のセーフティネットである救護施設、更生施設など生活保護法を根拠とする保護施設はそれぞれ都内で10施設と少数で空きもない。他都市も同様で、名古屋市の更生施設笹島寮の自立支援部門には「派遣切りで住まいを失った人が3割を占める」(佐原正人寮長)に至り、満員だ。

他方で目下急拡大してきたのが、無料低額宿泊所とも呼ばれる「第2種宿泊所」だ。保護施設と比較して法的規制が少なく、設置運営基準も緩い。99年にNPO法が成立すると、NPOによる宿泊所が一気に広まった。都の施設数は97年ごろまでは20カ所程度だったが、08年には160カ所を超えている。措置費で運営される保護施設と異なり、第2種宿泊所は利用料を財源としている。「利用料」の出元は生活保護費の住宅扶助だ。福祉事務所長から宿泊所に直接支払われることも認められ取りはぐれもないため、事業参入は後を絶たない。宿泊所の実情に詳しい、東洋英和女学院大学の北川由紀彦講師は、「宿泊所の職員が他地域の炊き出しに出かけて勧誘している。結果的に生活保護が取れなかったら入所させないNPOもある」と語る。

あるNPOによる宿泊所は住居費の月額3・9万円のほか、食費は日額1650円、水道光熱費も日額400円を徴収している。これでは生活保護費は手元にはほとんど残らなず、就職活動等にも支障が生じる。この施設も含めNPO運営の場合、ほとんどが相部屋で、狭い居室に4人も押し込まれる例もある。1人当たりの生活保護費の支給額は変わらないため高採算だ。こうした実態に、第2種宿泊所は自立支援や生活サポート機能が十分備わっていないとの認識を東京都は示している。

シングルマザーや障害者も安定した住まいの確保に苦労している。

「『子連れだと2LDK以上を借りてもらわないと』『保証人は40歳過ぎの男性で』などと言われ、アパートを見つけるのには本当に苦労した」。シングルマザーで小4と小2の娘を育てる二宮聡子さん(仮名、35)は振り返る。二宮さんは夫の暴力が理由で離婚。上京して何とかアパートを見つけたものの、慣れない仕事で心を病み生活保護を申請した。申請こそ通ったが、ケースワーカーに母子生活支援施設への転居を要請された。部屋は8畳間にトイレが付くが風呂はない。親子3人で銭湯に通うが、「施設の門限に間に合わず締め出され『決まりは守ってもらわないと』と職員から叱責されてから、ようやく入れてもらうこともたびたびだった」。今は体調も戻り再度アパートに移り住むことができたが、「牢屋みたいな鉄格子の門を思い出すと、やはり施設は住まいではなかった。戻りたくない」と語る。

脳性マヒによる両上肢機能障害で車椅子生活の寺岡俊二さん(仮名、36)が9年前、一人暮らしのアパートを借りるには難儀を極めた。「本人名義でないと補助金が出ないといくら説明しても、親名義でないと貸さないといわれたりした」。ようやく見つけたものの、重量の問題で愛用してきた電動車いすが室内で使えなくなった。それまでは一人で自炊もこなしていたが、これが使えなくなったことで、生活の多くをホームヘルパーに委ねざるをえなくなった。目下、大家からは風呂釜を新しくすることで家賃を上げたいと打診されている。「生活保護の住宅扶助ではこれ以上は無理」と表情を曇らせる。

さらに難しいのが精神障害者の住まいの確保だ。

「精神病院が収容主義だったため、地域の受け皿づくりが進まないままで来てしまった」。ソーシャルワーカーとして40年近く精神科医療の現場に携わってきた、精神障害者生活訓練施設「ハートパル花畑」の小見山政男施設長は語る。「長期入院で疎遠となった家族の協力は望めないことが多く、居住サポートなど公的施策も実施する自治体は少数だ。施設側がトラブルに24時間体制で対応するぐらいの覚悟がないと地域の納得は得られない」。

ハウジングプアに関する多くの訴訟にかかわる戸舘圭之弁護士は、「雇用の保障も重要な課題だが、まず安心して住める住居があってこそ、就労して自立することが可能」と語る。この数年間で住宅政策からの公の撤退が著しく進んだが、現状は明らかに「市場の失敗」が進んでいる。住宅に関しても、より厚めにセーフティネットを敷くことを議論する時期にある。

(週刊東洋経済)

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