日本は「家族の限界」をどうやって打破するのか 個人、共働き、専業主婦家庭…それぞれの壁

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中野:「家族を気軽に作って、うまくいかなければ解除できる社会」が理想だとご著書の中で書かれています。

筒井:私が考える理想ですが、現実的には難しいですね。ヨーロッパ、北欧ですら家族がやっぱり前提なんですよ。家族がいらない社会なんて、まだないよなと思いながら書きました。

一時期、今後はさまざまな制度や前提が家族から個人ベースに移っていくといった「個人化論」がはやりましたが、私の考えだと、社会は結局、個人化しなかったんですよね。そこは(研究者たちの予想が)外れている。

先進国のほとんどで、今はケアする人とケアされる人を国がセットで補助していくのが優勢ですね。最低限のユニットがあって、それを支援する、ただそこから漏れた人に厳しくなりすぎないように配慮は必要……という方向だと思います。

中野:子ども1人でも生きられるようにするという方向ではないという議論ですね。

筒井:家族を否定するというのは可能なのかという議論が一時期ありました。イスラエルのコミュニティで、子どもを親から切り離して(社会で)育てるという社会実験のようなことが行われていたことがあります。でも、結局誰かがその子の「親」になっちゃうんです。人間というのは、親がいない場合も、疑似親を作ってしまうのかもしれません。だから制度もそれに合わせざるをえない。ただその議論はちょっと目の前のさまざまな問題をすっ飛ばしてしまっているので、そんなことを考える前にやることはたくさんあると思います。

中野: 税制面で言えば、日本は個人単位での課税で、これは収入が対等な夫婦にとってはメリットが大きいと指摘されています。世帯単位での課税にすれば、世帯収入が高いほど税率が高くなり、世帯間の所得格差縮小につながる。ただこれは結婚することによる税制面でのメリットをなくすことになり、結婚してはじめて子どもを持とうとする夫婦が多いことを前提にすれば少子化対策にはマイナスになりえると。どういう社会設計をしていったらいいのでしょうか。

筒井:シンプルに考えていいと思うんです。実際問題として、共働きにならないと家計が支えられなくはなっている。少子化対策を考えたときに子ども手当とか配偶者手当とかの効果は微々たるものです。フルタイム共働きが理想ではなくとも、それがしやすい社会のほうが少子化対策としての効果は大きいと思います。

フリーランスに優しくない日本

中野:新刊の中で、共働きといっても、滅私奉公的な働き方をしているフルタイム会社員を夫婦が2人ともやろうとすると家族を作っていくうえで壁に直面しやすい、と書きました。正社員の働き方を改善させると同時に、フリーランスなど多様な働き方が増えていくことが必要だと思うんです。夫婦で収入源を分散させながら、働き手と家事育児をする側など、時期によって役割を交代するなどもしやすくなるのではないかと。

筒井:自営業やフリーランスの働き方も、現在はマイナンバーなど面倒くさいことが山のようにありますよね。今の日本はフリーランスにやさしくない社会。政府ができることもあると思います。

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