仕事相手を「怒らせてしまった」ときの処方箋 「怒りをなだめる」のは逆効果でしかない
いずれにしても、相手が「怒っている」ということがはっきりしたら、やるべきことは「失点を少しでも挽回しておく」ことです。そしてこのとき、大切なのは「失ったものをすべて取り戻そう!」とは考えないこと。失点を挽回するのはせいぜい15点、場合によっては5点程度でも十分なのです。
というのも、先程も述べたように、ビジネスのコミュニケーションにおける本題は「情緒のやりとり」ではなく、具体的な「条件交渉」だからです。こちらのミスで、相手の感情が80点から40点程度まで落ち込んでしまったとき、私たちは無意識のうちに元の80点、ことによると100点まで、相手の感情を回復させようと焦ってしまう。しかし、そんな必要はないし、相手もおそらくそこまでは求めていません。
もしも、自分のミスで相手の感情を40点ほどに落ち込ませてしまったとしたら、まずは「55点」ぐらいを目標に失点を挽回するように試みる。そこまで失点を挽回したら、条件交渉自体は不可能ではないはずです。
相手を「なだめよう」としてはいけない
では最後に、「相手が怒っているときに、具体的にどう対応をすればよいか」ということについても、述べておきましょう。
最初に覚えておいてほしいのは「相手の怒りをなだめようとしてはいけない」ということです。
そもそも「怒りをなだめる」というのは、簡単なことではありません。ましてや、怒らせた当人が相手の怒りをなだめるのは無理があるというのは、ちょっと考えれば誰にでも想像がつくことでしょう。
ところが、「相手を怒らせること」への恐怖心が強い人ほど、必死に相手の怒りをなだめようと右往左往します。その結果、さらに相手の怒りを買ってしまう、ということが起こります。
相手が怒ってしまったときの対応としていちばん大切なこと。それは「謝罪の定型」を守る、ということです。丁寧に頭を下げる。謝罪の言葉を述べる。相手が求めているものに耳を傾け、答えられることには答え、必要な行動をとる。これが、謝罪の定型です。
「嫌われたくない」という気持ちが強い人ほど、相手の感情に振り回されて、謝罪の定型を崩してしまいがちです。
怒っている相手というのは、「私の感情をなだめよ」というサインを出してきます。でも、それに引っ張られてしまうと、謝罪でいちばん大切な「謙虚で誠実な態度で対応する」ことができなくなってしまいます。きちんとした「所作」を守ること、それをきちんと、丁寧にやること。下手に「相手の気持ちを慮(おもんぱか)る」ことよりも、それはずっと大事なことなのです。
また、問題が長期化してしまったとき、あるいは謝罪の対応のタイミングを逸してしまったときには、相談できる相手が身近にいるということも大切です。すごくキレのいいアドバイスをもらえなくても構いません。とにかく常識的で落ち着いて話を理解してくれる人に、話を聞いてもらう。そうすると、自分が相手との情緒的な感情のやり取りにどの程度巻き込まれているかが自ずとわかってくるものです。
とくにこちらに非がある場合には、この作業は有益です。なぜならば相手とのやり取りを振り返るときに、ある一時点に集中することなく、その後の時間経過の中で、相手がどう感じてきているだろうかということを部分的にでも追体験でき、実のある謝罪につながることがあるからです。
長期化した場合にはここも重要なポイントです。相手はその瞬間の迷惑だけではなく、その感情的な思いをずっと抱えて生活してきた可能性があり、それに思いを致すことができるからです。
これも、相手を怒らせてしまったときに正しく対応するためには、大切なポイントだと思います。
アルファポリスビジネスの関連記事
名越康文 できるビジネスマンは、「相手の心を開かせる」のではなく「自分から心を開く」
名越康文 成功する人はなぜ「失敗」を怖がらないのか
名越康文 「パワハラ」よりも怖いのは「愚痴の多い飲み会」!?
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら