仕事相手を「怒らせてしまった」ときの処方箋 「怒りをなだめる」のは逆効果でしかない

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言うまでもないことですが、製薬会社のMRさんは、医者である僕に、薬を買ってもらう「営業」のために日参されていたわけです。インスタントコーヒーを差し入れるのも、雑談をするのもそのためです。

でも、当時の僕は、それが「営業」だということがなかなか理解できなかった。なぜなら「こういう薬が新しくできて、こういうときに使えて、おいくらで」という具体的な話をほとんどされなかったからです。

互いに要求を出し合ってすり合わせるだけであれば、内容だけなら10分もあれば済む話なのに、私たちは残りの50分を使って、互いの腹の探り合いをしたり、情緒的なやりとりをしようとする。

ビジネスの場において少し過剰なぐらい相手の感情を推し測り、情緒レベルでコミュニケーションしようとする。こうしたコミュニケーションの背景にあるのは、日本人の「上下」を中心とした人間関係の文化だと私は考えています。

「上下関係」がもたらすもの

ビジネスの交渉の場で相手が怒り始めると、私たちは動揺します。おそらく、プライベートの場面で友人が怒っているときよりもうろたえ、冷静に対応できなくなる人が多いのではないかと思います。それはなぜかといえば、ビジネスの現場における人間関係の多くが「上下」の関係にあるからです。

もしも「上下」ではなく「対等」の関係性であれば、相手が怒ったとしても、そう慌てる必要はありません。相手の言い分に耳を傾け、こちらに非があれば謝り、必要があれば穴埋めをする。しかし、ビジネスの現場で相手が怒り始めたときには、私たちはなかなかそんなふうに冷静に対応することができません。そこには無意識のうちに心の中に根付いた上下関係が影響しています。

日本の企業社会においてとくに顕著なことですが、会社の中であれ会社同士の付き合いであれ、私たちは非常に強い「上下」の関係性の中でコミュニケーションをしています。上司と部下の関係性は言うまでもなく、本来であれば対等であってもおかしくないはずの「店員」と「お客さん」の関係性も多くの場合、無意識のうちに「上下」の関係性になりがちです。

ではなぜ、上下の関係の中にいると、相手を怒らせることへの恐怖心が高まるのか。それは、上下の関係というのは往々にして「長期的な関係性」だからです。

学生時代の部活動で先輩=後輩の関係にあった人は、大人になってもその関係性を引きずることが多いようです。ビジネスの現場においても、私たちは(実際はどうあれ)目の前の相手との関係性(上下関係)が、これから先もずっと続くということを無意識のうちに感じ取っている。相手の怒りを買い、嫌われてしまうと将来までその悪影響が続くという固い信念が出来上がっているのです。

だからこそ、私たちは「目上の人」の怒りを買うことを恐れるのです。

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