アップル、タブー視されていた機能解禁の衝撃 WWDC19で「iPad専用OSを」発表

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例えばメールアプリで届いたメールを見ながら文書を作成している際、一時的に別のメールを参照したくても、今見ているメールを一度閉じなければならなかった。この点も改善され、1つのアプリから複数の文書やファイルを複数の画面で開けるようになった。

またマウス操作への対応や、ウェブブラウザーSafariがMac上と同様にWebアプリを扱えるようになったり、Adobeやモリサワなどのフォントを追加して活用できるようにするなど、 仕事で普段使うコンピューターが当たり前のようにできていて、iOSで実現してこなかった機能を次々に実現しているのが、iPadOS 13だ。

しかしアップルはまだまだ、ユーザーからの要望があり実現したい「ウィッシュリスト」は消化できていないという。日本のユーザーからすれば、日本語入力の安定性と精度の問題はすぐにでも対応してほしいところだ。

iPadでは、Apple Pencilが利用できる。当初はiPad Pro専用だったが、現在では最も価格の安いiPad(第6世代)、iPad Air、iPad miniでもApple Pencilをサポートするようになり、iPad操作の特徴ともいえる。

そのApple Pencilは信頼性や反応速度に定評があったが、これまで20ミリ秒だった応答速度を9ミリ秒へと高速化し、さらに滑らかで遅延を感じさせない書き味を実現するようになった。

またアップルは開発者向けにApple Pencil用のパレットを用意し、どんなアプリにも手書き入力を簡単に取り入れられるようにした。この点からも、Apple Pencilを前提としたiPadOSの進化を継続させていく路線がうかがえる。

同時に、iPadそのものの新しい活用法によって、Apple Pencil活躍の範囲を広げることにも成功した。

iPadOS 13とmacOS Catalinaに新たに搭載するSidecarアプリによって、Macの外部ディスプレーとしてiPadを活用できるようにしたのだ。これによって2面を利用する拡張ディスプレーや同じものを表示するミラーリングの際、iPadに表示されているMacの画面をApple Pencilで操作することができるようになった。

いわばiPadがMac向けの液晶タブレットのような役割も果たすようになるわけで、クリエイティブアプリだけでなく、PDFへの署名や赤入れを行うオフィスでの仕事にも活用できるだろう。

「iPadで全部片付く」を目指す先

アップルの役員に話を聞いても、ここ最近は仕事時間の6割以上をiPadで過ごすようになった、とiPadが仕事の道具として十分なポテンシャルを発揮するようになったという。

もちろんアプリやクラウドサービスの活用も背景にあるが、いままでメディア消費とクリエイティブが中心だったiPadが、より汎用的なコンピューターへと大きく前進するきっかけをiPadOSが果たしているという。

アップルとして、iPadとMacのどちらか一方を勧めることはないとしているが、iPadの守備範囲の拡大は、Macをより尖ったコンピューターへと成長させる環境を作ることにもつながるのだ。

iPadは直近の2019年第2四半期に48億7200万ドルを売り上げ、前年同期比21.6%増。15%を超える大幅な下落に見舞われているiPhoneをよそに、iPadは成長のペースを取り戻すばかりか、2期連続で大幅な伸びを記録している。iPadOS 13は2019年秋にリリースされることになっており、iPad躍進のペースを作れるか、注目だ。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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