メキシコに「国際結婚移住」した日本人妻の苦悩 孤独と向き合い気づいた本当の「強さ」

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「この街に来て、あまりに英語が通じないことにビックリしました」

メキシコ政府観光局によると、グアナファト州は年間500万人以上が訪れる観光都市だが、英語が通じるのは観光地のホテルやレストランのみ。博美さんらが住む地方は、スペイン語しか通じなかった。もちろん、ルイスさんの家族との会話も、スペイン語のみだ。

家族は、遠い国からやってきた博美さんを歓迎してくれた。だからこそ、コミュニケーションが取れないことがつらかった。みんなが冗談を言って笑い合っているのに、自分だけ理解できない。その場の空気を壊さないよう、半笑いの顔をキープしたまま、黙っているしかなかった。

ストレスで何度か過呼吸にもなった

メキシコは、誕生日やクリスマスなど、ことあるごとに親戚が集まってパーティーを開く。博美さんとルイスさんの結婚式にも、多くの人が来てくれた。そこでも、主役であるはずの博美さんは、何時間も作り笑顔で座っていた。

「移住した当初は、隔週で夫の実家に帰っていたんです。それが苦痛で。でも、スペイン語ができない私が悪い。家族はみんな優しいのに、会いたくないと思うなんて悪い妻だと、自分を責めていました」。博美さんは、周りとコミュニケーションが取れず、イラつく自分に疲れていった。ストレスで何度か過呼吸にもなった。

移住して戸惑ったのは、言葉だけではない。時間にルーズなことなど、日本人との感覚の違い。そして何より、治安の悪さだ。2018年の殺人件数は3万3341件に上る。日本の同年915件の、約36倍となっている。殺人だけで1カ月に3000件近く起こっている計算となり、もはやニュースにもならない。

「メキシコに来て、よくも悪くも性格が変わりました。基本的に、他人を信じなくなった。住んでいる場所は、そこまで危険ではないんですが、警戒はつねにしています。この前も、日本人の友達の家に空き巣が入りました。たぶん、タクシーの運転手から日本人がいるって情報が漏れたのかなって。だから、タクシーに乗っても家の前までは行きません」

最初はわからないゆえに「こんなものか」で乗り切っていたことが、少しずつ違和感として積みあがっていった。そしてついに、博美さんのストレスは爆発した。

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