日本語学校、空前の「開設ラッシュ」に潜む不安 外国人の特定技能35万人時代に対応できるか

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外国人がこれからますます増えていくことを想定し、国も動き出している。

今年2月、文化庁の文化審議会日本語教育小委員会は「在留外国人の増加に伴い、日本語学習ニーズの拡大が見込まれることから、日本語教師の量的拡大と質の確保が重要な課題」などとする「基本的な考え方」をまとめた。具体的には、質の高い日本語教師を安定的に確保するために、日本語教師の日本語教育能力を判定し、教師のスキルを証明する「資格」を新たに整備する、と提言した。

ただ、日本語教育につぎ込まれる国の予算額はわずか200億円程度と乏しく、年間約4兆円がつぎ込まれる学校予算(文教関係費)との差は大きい。日本語教育機関の業界団体は昨年11月、超党派の日本語教育推進議員連盟(会長・河村建夫衆院議員)に対し、「日本語教育推進基本法(仮称)の早期成立を」と陳情するなど、日本語教育機関の所管官庁を明確にすることを求めている。官庁の指導権限の強化と国の財政的支援はトレードオフの関係にあるが、日本語学校のレベルアップのためにはこうしたことも必要になるだろう。

将来も日本に留学してくれるとは限らない

政府は今年4月に出入国管理法を改正し、特定技能制度を新たに創設した。今後5年間で介護や建設、農業など14分野で約35万人の外国人を受け入れる予定だ。そして、これほど多くの外国人をきちんと受け入れる大前提となるのが、生活や仕事に必要な日本語能力だ。

だが、「特定技能の登録支援機関が、日本語教育についてどういう役割を果たすのか。採算ベースに乗るかどうかを見ながら判断したいが、今はまだ不透明」(ヒューマンアカデミーの田中氏)と当面は様子見の姿勢だ。

3月18日、都内のホールで大手日本語学校、赤門会の卒業式が開かれた。この日卒業するのは中国、韓国やロシア、アフリカのマリなど、35カ国からやってきた約700人。答辞に立ったロシア出身のベリンスキー・ドミトリさんは「入学して2年。お店や役所で会話を理解してもらえないのは日常茶飯事だった」などと日本での生活の苦労を振り返ると、ひときわ大きな歓声が響き渡った。

民族衣装に身を包んだ留学生による卒業式の記念撮影(撮影:山内信也)

ドミトリさんは日本の大学に進学する。彼のように、日本語学校卒業生の7~8割は大学や大学院、専門学校への進学を希望している。50カ国から1900人が常時在校している赤門会の新井永鎮常務は「ベトナムやネパールなどはここ数年、日本人気だが、ベトナムでも私費で日本で留学する人が少しずつ減ってきている。ベトナムの国力、経済力が上がっているから。アジアのどの国でも、第一富裕層と言われる子どもたちの留学先ナンバーワンはどうしてもアメリカやイギリスになる。2020年の東京五輪後に日本人気もおそらく一巡することなど、複合的要因を考えると、今までのように留学生が右肩上がりで増えることはおそらくない」とみる。

現状の日本語人気に甘えずに、わざわざ日本に来て日本語を学び、日本の学校や企業、地域に入っていく若き外国人たちにどう向き合うか。人類史上例のない、本格的な人口減少に向かう日本社会に突き付けられた大きな課題である。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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