ほとんど欲のない千尋さん。そんな彼女の貯金額を聞いて愕然とした。なんと1000万円もあるというのだ。実家暮らしだということを踏まえても、こんな大金の貯金額の人はこの連載で初だ。
何度も「コミュニケーションを取るのが苦手」と伏目がちに語る千尋さんだが、実は、荒療治のため週に数回、ホステスのバイトをしているという。こう言うと失礼だが、決して派手なタイプではないので、夜の蝶の姿を想像できない。きちんと男性客と話せるのだろうか。
「ホステスの仕事のときはドレスを着てきれいな格好をします。でも、話は全然できませんね……。派遣なので、面接の際、見た目が地味というだけで帰されてしまうこともありました。おしゃべり教室のつもりで行ってます。人とのコミュニケーション能力は全然上がらないけど、いろんなお客さんと話すので、世界観は変わった気がします。時給は2000円ほどです。
また、以前は「美人や若い女性がいない」ことをうたい文句にしている店で働いていました。実際には美人のホステスさんもいるのですが、お客さんはきれいな女性がいることを期待しないで来るので、そこは働きやすかったですね。ホステスは本当に苦手な仕事です。だから、こうやって稼いだお金は使う気になれなくてすべて貯金してます」
これだけ貯金があれば安心だろうと、不安定な職であるフリーライターの筆者は思ってしまったが、彼女にとってはそうではないらしい。
「いくら貯金があっても不安です。自分が欲しいものはお金じゃないんですよね。一生懸命働いて、働いて、貯めても、『なんかこれじゃない感』が強い。このお金は我慢料というか。自分が何を求めているのか、自分でもわかりません」
もうちょっと楽に生きられるような愛嬌が欲しい
最後に、彼女に何が欲しいのか聞いてみた。
「コミュニケーション能力と仕事ができる能力です。でも、能力って勉強したから手に入るものではないし……。もうちょっと楽に生きられるようになりたいです。別に、仕事ができなくてもニコニコと愛嬌さえよければ楽しく過ごせると思うんです。そこなんですよ、もしかしたら私が欲しいものは」
この日、彼女が関西から来ているのを知らず、事前にインタビュー場所の希望を聞くと歌舞伎町がいいと言われたため、歌舞伎町のカフェで取材をしていた。「関西から来ると事前に知っていれば、品川駅など新幹線の交通の便がいいところを提案したのにごめんなさい」と謝ると、「いいんです。歌舞伎町が好きなので」とのことだった。
「次に東京に来たとき、働いて帰れるよう、これから歌舞伎町のキャバクラ派遣の登録だけしに行きます」
そう言って千尋さんは歌舞伎町の歓楽街へ消えていった。何のために働くのか、何のために貯金をするのか。彼女に会って自分自身を振り返る機会ともなった。
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