「通帳・ハンコ・支店」が「オワコン」になる日 デジタル化で銀行から消える「フリクション」

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実は、テクノロジー巨大企業は、こうしたフリクションの解消をミッションとしている。例えば、グーグルのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」であり、情報洪水の中で適切な情報を見つけることのフリクションを解消しようとするものだ。アマゾンは「地球上でもっともお客様を大切にする企業であること」や「地球上で求められるあらゆるものを探し、発見でき、購入できる場を提供する」ことを掲げており、購買行動におけるフリクションをなくそうとしている。

フィンテック企業も同様で、デジタル技術を活用して金融における人々の不便や不具合をなくそうとするものがほとんどだ。古典的な例としてアメリカのスクエアを挙げよう。

創業者の1人であるジャック・ドーシーは、友人の芸術家から、アトリエを訪れた人が作品を気に入ってくれたにもかかわらず、クレジットカードでの支払いが受け付けられなかったために商機を逸したという話を聞いて、カードの認証が行えるスマートフォンの外付けデバイスを開発した。それまで加盟店になるには、カード会社の厳しい審査を受けて高額のカード認証端末を導入する必要があったものが、実質無料のデバイスを購入すれば、簡単な審査で零細店舗や個人事業主がカードの加盟店になれるようになったのだ。そしてアメリカのカード加盟店数は激増した。

ところが次は、クレジットカードの存在そのものがフリクションと捉えられるようになる。アップルペイをはじめとするスマートフォン決済が新たに普及すると、スクエアが開発したデバイスはすぐに時代遅れとなった。テクノロジーの進歩は速く、フリクションは次から次へと解消されていくのだ。

行員の仕事を代替するAI

サービス業には、目的系のものと手段系のものがある。例えば、旅行が好きで、どこかを訪れてリフレッシュすることは目的だろう。その旅行のために自動車を買おうとローンを借りることは手段だ。つまり、金融は手段系のサービスである。そして手段系のサービスは、基本的にそれ自体がフリクションであり、その利用のためだけに時間や手間やコストをかけたい利用者はいないだろう。極論を言えば「ない」ことが望ましいのだ。

ブレット・キング氏の新著『Bank4.0』では、テクノロジーが発達して近い将来に個人用AIが登場した世界を想定して、自動車を買おうかと考える主人に対して、AIが次のように話しかける。「今すぐ新車を買う余裕はありませんが、今日ウーバーのドライバーに登録すれば、今後2年間のリース費用の半額をカバーできます。1週間に最低4時間ドライバーとして働くという条件に合意するだけです。興味はありますか?」

このAIは、主人の懐具合や消費のパターン、所有と利用に関する志向などを知っていて、利用可能な金融の選択肢を洗い出して評価し、最適と思われるものを提案してくる。つまり、現在は消費者やフィナンシャルアドバイザーあるいは銀行員が行っている作業を代替し実行しているのだ。そしてこれらの作業はすべてフリクションだ。

すでにAmazon GOのように、買い物経験の中で自動的に決済が行われ、支払いという行為を必要としないサービスも登場している。金融サービスの多くは、こうして自動化されて顧客経験の中に組み込まれていくことで、フリクションを低減させていくと考えられる。

その結果、金融サービスのかなりの部分は、表舞台から姿を消すことになるだろう。バンキングも例外ではない。銀行の支店がなくなるわけではないが、「紙」「ハンコ」「通帳」といった物理的なものとそれを使うプロセスや簡単なアドバイスなどは、コンピューターがモバイルデバイス経由で行うものになる。ビル・ゲイツの言葉の実現である。

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