英EU離脱前の混乱、ユーロスター「乗らないで」 連日の遅延、実は仏税関職員のサボりが原因

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欧州委員会は2月、イギリスが「合意なき離脱」に至った場合でも、その後3カ月はイギリス側鉄道インフラなどのEU安全規格への適合性認証を認めるという緊急対策案を採択した。これによってユーロスターなどの当面の運行に混乱が生じないようにする狙いだ。イギリス政府によるブレグジット後のEU域内への旅行案内を読んでも、ユーロスターやユーロトンネルを通る自動車輸送用のシャトル列車「ル・シャトル」の利用については何も変わらないと説明している。

ただ、実際にはこのようにブレグジットより前から混乱が発生してしまった。この状況は当分収まる雰囲気にはない。とりあえず3月末まで毎日数便のキャンセルが決定しているうえ、ほかの便の利用予定客でも無料の日程変更もしくは全額の払い戻しを求められることになっている。

ただ、お金が返ってきても、飛行機などの代替交通を手配するのに「1人100ユーロ(1万2500円)以上は余分に出さないと切符が買えない」(イギリス人旅客)なのが現状で、利用客には受け入れがたい状況が起こっている。

パリとロンドンの間には、ドーバー海峡をフェリー航送で結ぶ長距離バスが毎日10本ほど通っているが、列車のキャンセルのあおりでバスの席が取りにくくなっているうえ、フェリーの埠頭があるフランス・カレー港の税関職員も頻繁に「遅延行為を伴う実力行使」を行っており、港へのアクセス道路で渋滞が生じている、と現地の地方紙が報じている。

離脱前から混乱、見えない行方

すでに各種の報道で伝えられているように、フランスでは昨年11月から週末ごとに、いわゆる「黄色いベスト運動」と呼ばれる大きなデモが行われている。しかも3月に入ってから、パリの中心街・シャンゼリゼ通り沿いにある有名ブランド店や老舗カフェへの暴徒による破壊、放火も起きた。ただでさえ、デモの影響でパリへの観光客が減る傾向が出ている中、ブレグジットに絡んでユーロスターを利用した旅客の出入りが事実上困難になるのはフランスにとっても由々しき事態だ。

3月20日現在、ロンドン発のユーロスター各列車は、若干のスケジュール変更といった影響はあるものの、大きな乱れは生じていない。しかし、ブレグジットの進展いかんでは、英国側出発時の税関検査も厳しくなる可能性も否定できない。

ユーロスターはブレグジット後も今までどおりの運行形態を保てるだろうか(筆者撮影)

イギリス議会下院は3月13日に「合意なき離脱」の回避を採決し、翌14日には離脱の延期をEUに求める政府動議を可決した。英国案の受け入れを加盟各国が拒んだら、長期の延期、もしくは当初の予定どおり今月29日に離脱になる可能性もある。

混迷の度を増すブレグジット。イギリスと欧州大陸を結んで走る高速列車には「フランスのスト」が原因とはいえ、すでに影響が表れてしまった。せめて列車については不穏な状況を1日も早く解決してもらいたいものだが、先は見通せない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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