米朝会談決裂に大揺れ「韓国」の暗いシナリオ

韓国で政治的イデオロギー戦争が始まった

もっとも、革新派内では、北朝鮮は本心から非核化を望んでいるものの、北朝鮮側の瀬戸際交渉戦術が今回の失敗の一因になったという認識が一般的だ。「(交渉)プロセスを円滑に進めるために、金正恩は国際社会に北朝鮮非核化のためのロードマップを提示すべきだ」と、文大統領に近い革新派日刊紙ハンギョレは3月6日に報じた。「金正恩がそれ(ロードマップ提示)をやるのか死ぬのかを決める時が来たのである」。

文大統領と彼の最も忠実な支持者たちが、今回の会談に非常に大きな期待を寄せていたことは明らかだ。実際、文政権はこの会談後の3月1日には、「南北経済協力プロジェクトの新たな波」という提案をする予定だった。「文大統領はアメリカの交渉計画をまったく理解しておらず、ただその結果に驚いていた」と、元NIS副院長で北朝鮮との会談を率いてきた金塾氏は語る。

保守派たちは交渉決裂にほっとしている

「文政権は、(ドナルド)トランプ大統領と、彼のチームに対する憤りを隠せずにいる」。李明博元大統領の元国家安全保障顧問であり、6者間協議で韓国交渉チームを率いた千英宇氏も話す。「ただし、アメリカを公然と非難することには慎重になるだろう。文大統領は現段階で面と向かってトランプを非難することには消極的だ。まだアメリカと北朝鮮による合意の希望を捨てたくないのだ」。

米朝首脳会談の失敗は、北朝鮮との交渉努力が韓国内で勢いを失いつつある文大統領にとって、非常に恥ずかしいことであった。「一般の韓国人は困惑し、意見は分かれている」と千氏は言う。ただし「ほとんどの保守的かつ、現実主義的なオピニオンリーダーは(交渉が決裂して)ほっとしている」。

今回の失敗自体が、文政権の政策に深刻な変化をもたらす可能性は低い。文政権、そして彼の北朝鮮政策のコアな支持者は、今回の失敗が致命的な問題をもたらすわけではないと考えているし、保守系最大野党、自由韓国党は依然、分断状態にあり、文政権の「失敗」に付けこんでいる余裕はない。

文政権にとって目下、それより深刻な問題になりかねないのは、韓国経済を好転させることができないことだろう。「文政権は何があっても今の政策を追求するつもりだろうが、彼の社会主義的な経済政策の失敗により、支持基盤は緩んでいる」と、韓国の元高官は話す。

文政権は今後も、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との関わりを深めたいと考えているようだが、アメリカの承認なしには進めたくはないようだ。「文大統領が一方的に経済協力に向かうとは考えられない」と、前述の金氏は言う。目下の目標は、ハノイで議論された部分合意の修正に向けての交渉を再開することである。トランプ大統領との直接の衝突は、今のところ、あまりにもリスクがある。

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