「東京パラ」に懸念、バリアフリー未整備の内実 国・都の対策進むも必要な客室数を把握せず

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海外のホテルはバリアフリーになっていなくても、出入り口や浴室などのサイズが日本のものよりも大きいため、車いすで利用できる部屋も多い。そのため最近行われたパラリンピックで、宿泊施設は特段問題になっていない。さらに競技会場の近くには、多くの車いすユーザーがより快適に宿泊できるように、バリアフリーが整った施設もある。

筆者は2018年10月、パラリンピック発祥の地である、イギリス・バッキンガムシャー州にあるストーク・マンデビル村を取材した。ロンドンから高速道路を使って車で2時間ほどかかるこの村の、ストーク・マンデビル病院が、脊髄損傷患者のリハビリのためにスポーツを取り入れ、1952年から国際大会を開いたことが、パラリンピックの起源になっている。

病院の隣接地には、過去にパラリンピックの会場にもなったスタジアムがある。競技場、体育館、プール、ジムと、20種類以上のパラスポーツを楽しめる。障害のある人もない人も、朝早くから夜遅くまで、この施設を利用してスポーツを楽しんでいる。

当然、今でもスタジアムでは国際大会が開かれる。車いすユーザーの選手たちの多くは、同じ敷地内にある「Olympic Lodge」に宿泊できる。部屋数は50室あり、ツインルームが主体で、ダブルルームもある。

シャワー室と一体化したトイレ。車いすでも十分に動ける広さがある(筆者撮影)

ホテル内の通路幅は広く、エレベーターも、部屋も、会議室も、入り口の幅が広い。シャワー室とトイレは一体化していて、車いすで十分動き回ることが可能な広さがあり、シャワー用のいすもある。

もちろんホテル内のどこにも段差はない。設計を変えるだけで、障害のあるなしにかかわらず、誰でも快適に過ごせるホテルになるのだ。それでいて、宿泊料金はリーズナブル。残念ながら、このような宿泊施設は日本にはない。

目標値がなくてバリアフリー化が進むのか

国土交通省は、障害のある人や高齢者など、すべての人が円滑に移動できる建築設計のガイドラインを作成中で、3月10日までパブリックコメントを募集していた(ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)案)。策定後、来年から全国で説明会を開催して周知を図るという。

障害者団体からも意見を聞いて、ハード面だけでなく、ソフト面の配慮も盛り込んでおり、東京都の条例同様、一般客室のユニバーサルデザイン化も示している。ただ、問題は数値目標がないこと。DPI日本会議の今西氏は「国内の客室全体の何パーセントでユニバーサルデザイン化を目指すのか目標がないと、結局は進まないのではないか」と実効性を疑問視している。

基礎となる数字もなければ、目標とする数値もない。パラリンピック開催まで1年半を切る中でこのような状態では、ホテルの改善は間に合わず、その先のレガシーもないのではないか。残された時間の中で、できるだけの対策を再考するべきだろう。

田中 圭太郎 ジャーナリスト・ライター

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たなか けいたろう / Keitaro Tanaka

1973年生まれ。1997年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。雑誌やWebメディアで大学、教育、経済、パラスポーツ、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(筑摩書房)。

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