日本にも影響及ぶ朝鮮戦争「終戦宣言」の現実味 トランプ大統領はそのカードを用意している

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

朝鮮半島への中国の影響力拡大もいっそう進んでいる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、1月上旬に中国を訪問し、習近平国家主席の訪朝を要請した。習主席は4月ごろに訪朝し、その後、間を置かずに、韓国を訪問するとみられている。経済をテコにして、よりいっそう南北朝鮮との関係強化を図るだろう。

最新鋭の装備を持った在韓アメリカ軍の縮小は、中国、北朝鮮とも望むところだ。歴代の米政権は、朝鮮半島での中国の動きに神経を尖らせてきたが、ビジネスライクのトランプ大統領は中国との経済摩擦には敏感でも、朝鮮半島での影響力拡大には頓着していないようだ。

日本は第2の韓国に?

朝鮮戦争の終戦で、最も影響を受けるのは、実は日本かもしれない。朝鮮半島が軍事的緊張の最前線になっているおかげで、日本は比較的安全な環境でいられた。それだけに朝鮮半島の情勢には、つねに気を配ってきた。

例えば昭和天皇は、朝鮮戦争の休戦ムードが広がっていた1953年4月20日に、こう語っている。

「朝鮮戦争の休戦や国際的な緊張緩和が、日本におけるアメリカ軍のプレゼンスにかかわる日本人の世論にどのような影響をもたらすか憂慮している」

「日本の一部からは、日本の領土からアメリカ軍の撤退を求める圧力が高まるであろうが、こうしたことは不幸なことであり、日本の安全保障にとってアメリカ軍が引き続き駐留することは絶対に必要なものと確信している」(いずれも『昭和天皇の戦後日本〈憲法・安保体制〉にいたる道』豊下楢彦著、岩波書店)

隣の国の分断と対立が終われば、日本に不都合な事態が起きるという不安心理は、当時も今も、日本人の中に根強くある。

朝鮮戦争は、海から上陸して戦うため、「殴り込み部隊」と呼ばれる米海兵隊の戦争でもあった。不利な戦況を逆転に導いた仁川上陸作戦は、海兵隊が最後に行った大規模な上陸作戦だった。また、その後38度線を突破して、北朝鮮側に深く侵攻したのも海兵隊だった。

沖縄に海兵隊が配置されているのも、このときの功績が評価されたものと言えるだろう。しかし、休戦状態から終戦となれば、まずは沖縄に駐屯する海兵隊基地の縮小を求める声が高まるのは間違いない。

日本政府が負担するアメリカ軍駐留費(思いやり予算)の見直しを求める運動も広がるかもしれない。韓国では、日本よりもはるかに激しい反アメリカ軍基地闘争が繰り広げられてきたが、日本が、今後「第2の韓国化」する可能性もある。当初混乱は起きるだろうが、悪いことだとは言えない。戦後、日本政府が続けてきたアメリカ依存の外交、安保体制の見直しを図る機会にもなるだろう。

米朝間で終戦が実現すれば、次のステップは、経済制裁の緩和、相互の連絡事務所開設、国交正常化だ。アメリカと中国との間でも、こういう道をたどっている。拉致、核、ミサイルの解決を掲げる日本政府も、否応なく北朝鮮との関係改善を迫られるだろう。

日本では2回目の米朝首脳会談について、結局何も動かない、北朝鮮は結局核を放棄せず、交渉は失敗するとの見方が多いものの、トランプ大統領が持ち出す「終戦カード」には、最大限の注意を払うべきだろう。

五味 洋治 東京新聞 論説委員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ごみ ようじ / Yoji Gomi

1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞東京本社入社。韓国・延世大学に語学留学の後、1999年から2002年までソウル支局に勤務。2003年から2006年まで中国総局勤務。この間、2004年に北京国際空港で金正男に偶然会ったことからメールのやり取りが始まり、のちに単独インタビューを実現させる。2008年8月から10カ月間ジョージタウン大学にフルブライト留学。現在は東京新聞論説委員。著書に『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事