年金は何歳からもらうのが一番おトクなのか 75歳からもらえば、受け取り額は約2倍に?

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本来の受給開始の年齢自体は、当初の60歳から65歳に5年引き上げられたものの、平均寿命が20年も延びているのですから、制度自体も変化するのは当然と言っていいでしょう。実際に高年齢者雇用安定法の改正によって、60歳定年の会社でも社員が希望すれば、65歳までの雇用が可能になりました。今後はこれをさらに延ばして、70歳まで働けるようにしようという検討もされています。

実際、65歳から69歳まで働く人の割合は、総務省のデータによれば男性で54.8%ですから、およそ2人に1人は60代後半でも働いていることになります(「総務省統計局 労働力調査」平成30年より)。さらに、同調査によると、70歳以上でも働く人は20.9%ですから、実際は5人に1人は働いているのです。したがって、働けるうちは元気に働き、年金の支給開始年齢を自分で調節するのも1つの方法です。

仮に、65歳から受け取る公的年金を70歳まで繰り下げた場合、受け取る年金額は1カ月ごとに0.7%増額されるため、生涯にわたって42%増えることになります。ただ、この制度を知らない人はかなり多いため、利用率も1%程度なのが実態のようです。そこで今年4月からは「ねんきん定期便」にもその旨が記載される予定です。公的年金は終身、つまり死ぬまでもらえるわけですから、42%増えるというのは魅力的です。

自分で投資や資産運用をして、毎年これだけの金額を増やすのが至難の業であることを考えると、貯蓄や退職金を投資で増やすことを考えるくらいなら、それを生活費とし、年金を繰り下げるほうが確実にお金を増やせると考えてもいいでしょう。

75歳まで繰り下げると受け取り額は1.9倍に増えるが…

今回、その選択肢を70歳から75歳までに増やすことによって、0.7%の増額率を0.8%にさらに上げることが検討されています。そうすると、仮に75歳まで繰り下げた場合にもらえる年金額は、基準の金額に比べて約1.9倍になります。もちろん75歳までに死んでしまえば、年金はまったくの払い損になりますから、早くもらっておいたほうが得だという考え方もあります。

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でも、死んでしまえば、損も得も関係ありません。公的年金の本質は貯蓄ではなく、保険ですから損得を考えてもあまり意味はないのです。保険の目的は万が一の不幸に備えるものです。つまり、公的年金は万が一長生きしたことでお金が尽きるという不幸に備えるためのものなのです。だとすれば、元気で働けるうちは働いて、年を取ってから手厚く給付を受け取るという選択肢があってもいいと思います。

ただし、働いて年金の支給開始を遅らせる場合、いくつか注意すべきことがあります。定年後も働く人が増えてきた一方で「在職老齢年金」という制度があるため、一定金額を超える報酬を得ると年金の支給が一部停止になることがあります。この制度の見直しは今後の重要な課題と言えるでしょう。

また、年金支給を遅らせて受給額を増やす場合、繰り下げている間、配偶者が受け取ることのできる加給年金が受け取れませんし、仮に繰り下げをしても、本人が亡くなった場合に支給される遺族年金まで増額されるというわけではありません。そのあたりは注意しておくことが必要です。

筆者は現在67歳ですが、普通に働いているので、年金を受け取っておらず、病気になったり失業したりしない限り、将来に備えて繰り下げたいと思っています。働き方が多様化する時代において年金の受け取り方法だって、選択肢が増えるというのはいいことと考えるべきではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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