自動運転車がハッキングされたらどうなるか 「ロボット研究」のスペシャリストが徹底解説

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自動車社会から自動運転車社会へ(写真:metamorworks/PIXTA)  
自動運転車の実用化に向けた開発競争が熾烈を極めている。一方で、自動運転に関しては事故発生時の責任問題をはじめ、課題が山積したままである。自律機械に関する研究に取り組む論者が、全3回にわたって解説する。第1回のテーマは「ハッキング」(ロボット研究者・浅田稔)。

自動運転車は、さまざまな無線通信技術(GPS、 GNSS、ETC、携帯通信網、テレマティクス、VICS、ワイヤレスキーなど)を駆使して、システムが安全に機能することとなると考えられる[1]。

このシステムは、3次元デジタル地図情報、交通情報、信号情報等の運行に必要な情報に係る通信のほか、運行管理センターからの遠隔監視のための通信、ECUの制御プログラムや自動運転ソフトを無線通信によりアップデートするOTA (Over The Air) など、最新のデータやプログラムを無線通信で取得することを前提としている。

これらの背景には主に以下の理由が挙げられる[2]。

(1)無線通信の高速・大容量化
(2)車載情報通信端末の低廉化、スマートフォン等による代替化
(3)ビッグデータの流通の大幅な増加

たとえば、自動車同士が協調し合うための情報、路面や環境の変化に関する情報、目的地の設定などが相互に行き交うことで、より円滑な自動車社会が実現する。しかしながら、もしこれらの通信に対して不正に介入したり、改ざんしたりすることができたとしたらどうだろう。

コネクテッドカーの危険性

ここ最近、自動運転車がハッキングされるという場面を映画などで見かけることが多くなってきた。現実にそのようなことが起こる可能性や、実際起こった場合、どのような影響を与えるだろうか。

警察庁による発表では、2017年の自動車盗難件数(認知件数)が1万213件で、1日におよそ28台のペースで盗難の被害に遭っていることになる。2003年(6万4223件)のピーク時以降、減少傾向にあり、2017年は2003年の6分の1以下にまで減少している[3]。

これらの数字は、自動運転車の実現によって、これまで以上に自動車とインターネットなどのネットワークとが積極的につながっていく近い将来において、変化が起こる可能性が大である。

富士経済によれば、外部通信ネットワークと常時接続を可能とするコネクテッドカーの世界市場は、2017年に2375万台、コネクテッドカー比率34.1%が見込まれた[4]。2035年には販売される新車の96.3%がコネクテッドカーになるとみられ、その数は1億1010万台(2016年比5.3倍)と予測されている。つまり、今から26年後にはほとんどの車がコネクテッドカーとなる可能性がある。

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となれば今後、自動車盗難についても1台ずつピッキングして盗み出すという古典的な手法だけでなく、ネットワークを介して一度に複数台の自動車を効率よく盗み出すことができるだろう。

そして、盗み出した自動車を暴走させてしまえば、人の生死に関わることも起こりうるし、盗み出した大量の自動車を道路上に停止させてしまえば、社会インフラをいとも簡単にマヒさせることもできてしまう。

このため、ネットワークに接続したコネクテッドカーである自動運転車の安全確保の観点から、サイバー攻撃に対するセキュリティー対策を講じることが不可欠である。

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