あのブラックベリーが挑む「大転身」の勝算 次世代自動車の陰の主役に?米CES最新報告

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自動運転システムや外部とのインターネット接続機能など、自動車の電子化が進む中で、最大の脅威はサイバー攻撃やシステムの故障だ。2015年にアメリカで行われた実験で、走行中のジープが外部からの遠隔操作で急に減速するなど、ハッキング可能であることが判明し、世界中で話題になった。必要とされるのは、こうした脅威からシステムを守るOSで、そこでブラックベリーの技術が生きてくる。1月9日に取材に応じたチェン氏はこう語る。「当社がいちばん高いシェアを持つのは車載インフォテイメントシステム向けのOSだ。これまでは単に音楽を聴く、地図を見るといった機能だったが、次世代自動車ではこのシステムが安全に車を走らせるための操作盤になる」

CESで新しく発表されたデジタルコックピットシステム(ブラックベリー提供)

シニアバイス・プレジデントで販売マーケティング部門を率いるケイヴァン・カリミ氏は、車の乗客のみならず、車メーカーにも必要だという。「自動車メーカーにとって、(自動運転車などの)走行データは重要な財産だ。現在、IT広告企業も自動車市場に入ってきているが、フェイスブックが謝罪をしても懲りずにスマホから個人データを抜き取っているように、車でも同じことが起こらない保証はない。当社は絶対にそのようなことはしない」。

競争激しい車載ソフトウェア市場

もっとも、安全性の高さを売りにした車載ソフトウェアは、IBMやマイクロソフト、サムスンなど競合も多く、市場は過熱しそう。だが、前出のカリミ氏は、ここでも独自性を発揮できるという。

「現在、自動車開発に占めるソフトウェアの重要性は増大傾向にある。車1台に異なるOSを搭載した電子制御装置(ECU)が複数搭載されていることが開発の障害になっており、誰もがもっとシンプルにしたいと思っている。その点、多くの競合の中で、ADASからクラウド接続まで、複数のOSを1つの制御システムで使えるようにしたのは当社だけだ」

仮にどれか1つのOSが故障した際は、相互干渉を回避して運転機能にまで影響は及ばさないように隔離することもできる。今回のCESでも、androidベースのOSであれば1つの制御装置で利用できる、新しいデジタルコックピット用のシステムを新発表し、前出のフィスカー「カルマ」のコンセプト・カーへの採用も決まった。

携帯電話で惨敗しても、その強みをうまく応用し、次世代車の「アキレス腱」ともいえるソフトウェアの安全性で再起を図るブラックベリー。その戦略は、自動車業界への新規参入を進める多くの電子部品、システムメーカーにとって1つの好事例となりそうだ。

もっとも、ブラックベリーQNXを含む事業が売上高に占める比率はいまだ2割以下で、携帯電話の全盛期ほどの事業規模を取り戻すには不十分だ。しかも、今後の成長は「(次世代自動車の実用化に対する)国や地域の法規制がどこまで緩和されるかにもよる」(チェン氏)。ブラックベリーが車載向け市場で再び一時代を築くことはできるのかは、未知数だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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