会場最寄り駅を閉鎖、英国五輪「逆転の発想」 長い距離を移動させて、観客の分散を促す

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――駅の改修にも携わったそうですが。

2007~2010年に、地下鉄のキングス・クロス・セント・パンクラス駅で現場監理をしていた。地上にあるキングス・クロス駅はイギリス最大級のターミナル駅の1つで、『ハリー・ポッター』にも登場する。この地下鉄駅を、明るい、大きい、わかりやすいという3つの目的で改修した。ここには地下鉄6路線が乗り入れている。それに隣接する2つの駅、さらにバスと、複雑で大量の人をさばくための拡張工事だった。

キングス・クロス・セント・パンクラス駅構内に設置されているピアノ(編集部撮影)

先日、6年ぶりに訪れたが、ガラスタイルを使用したことで明るい雰囲気になっていた。ホームは変わらず狭かったが、人の流れを整理したことで、構内の人の動きが乗り換えなどの目的に沿ったものに定着していた。

すてきだと感じたのは、この駅の構内にさりげなくピアノが置いてあって、通りがかりの人が気軽に弾いていくことだ。駅には「待つ」という機能もある。「出会いと別れの場」でもある。そこに自然にピアノの旋律が流れ、傍らで抱擁しているカップルもいる。映画のワンシーンのようだった。日本でも、新幹線の浜松駅にピアノがあって自由に弾けると聞くが、日本ではよほど自信がなければ手を出せない雰囲気になってしまいそう。でも、ロンドン市民は音楽のジャンルを問わず、サラッと弾いて何気なく去っていく。

ロンドンにも駅ナカが増えている

――イギリスに日本の駅を参考にしているような駅はありますか。

ロンドンブリッジの駅ナカショッピングエリア(編集部撮影)

参考にしたかどうか確かではないが、駅ナカのようなものが増えている。セント・パンクラス駅にはショッピングモールがあり、ロンドンブリッジ駅では改装に伴って使われなくなった昔のレンガ造りのアーチを残してそこを店舗にしている。おそらく日本の駅ナカ事業から、駅構内に商業空間としての可能性があることに気づいたのだと思う。

――逆に、日本の駅がロンドンを参考にするといいところはどこですか。

日本の鉄道は、安全に正確に乗客を運ぶというところに長けている。しかし、運輸という目的を追求するあまり、効率が優先されすぎているように感じる。

山嵜 一也(やまざき かずや)/1974年生まれ。芝浦工業大学大学院建設工学修士課程修了。2001年単身渡英。観光ビザで500社以上の就職活動をし、ロンドンを拠点に活動開始。ロンドン五輪招致マスタープラン模型、レガシーマスタープラン、グリニッジ公園馬術競技場の現場監理などに携わる。2013年1月帰国。山嵜一也建築設計事務所設立。一級建築士、女子美術大学非常勤講師。

ロンドンに入ってくる鉄道は、街の中心部周辺が終着駅となり、それを地下鉄などがつないでいる。乗り換えは煩わしいが、終着駅であるターミナル駅が、街の広場=スクエアのようなたまり場の役割を果たし、魅力となっている。だから自然にピアノの旋律が響き、出会いの場、憩いの場となる。一方日本では、たとえば上野東京ラインによって路線が結ばれて便利にはなったが、北の玄関口という上野駅の情緒は失われてしまった。

駅は、その街に来た人が最初に降り立つ場所である。そこに驚きがあることで、記憶に残る。日本の鉄道会社は車両のデザインにはとても積極的に力を注ぐが、なぜ駅についてはあまり考えないのだろうか。ロンドンでは、「駅に到着した瞬間にロンドンが始まる」という圧倒的な空間があるのに。

新幹線をはじめとした鉄道車両を見ながら過ごせる場所が駅にないのも、不思議だ。ロンドンの駅には、発着する列車を望めるカフェがあって、駅ならではの雰囲気を出している。東京駅にも新幹線各線の車両を眺められるカフェとかロビーとかがあったら、外国人にもきっと喜ばれるに違いない。

柳澤 美樹子 りゅう文章工房代表

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やなぎさわ みきこ / Mikiko Yanagisawa

「旅・食・人」をテーマとした、著述・編集業。まちづくりや交通、伝統食、神社などに関心が深い。健康・医療を中心に、インタビューなども手がける。信州、金沢、伊勢・志摩をはじめとした地域ガイド、鉄道や生活文化などを取材・執筆。著書に『鉄道廃線跡を歩く』シリーズ、『達人に学ぶ鉄道資料整理術』など。

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