会場最寄り駅を閉鎖、英国五輪「逆転の発想」 長い距離を移動させて、観客の分散を促す
――グリニッジ馬術競技場の建設にも関わったのですね。
現場監理を担当した。天文台で有名なグリニッジは世界遺産に登録されていて、馬術競技場の予定地は美しい公園でもあり、競技場は1カ月半の期間中のみの仮設。終わった後は原状復帰する必要がある。
そこで考えられたのが、鉄パイプの骨組みに布を被せただけの観客席だった。夏祭りの1日のために建てられる「やぐら」のようなものだ。世界に対して、チープで恥ずかしいものになるのではないか。そんな心配もどこ吹く風、イギリス人は期間中だけ役割を果たすことができればそれでいい、と割り切って実行した。できてみると、それがなかなかシンプルでいい。いつ地震が来るかわからない日本と、同列には比較できないが、思い切った選択だった。
美しい街並みが全世界に中継される
――グリニッジは立地もよかったようですね。
グリニッジの丘から眼下の競技場と背景のロンドンの街並みを見晴らせる位置関係で、五輪の馬術競技の様子は「ロンドンの美しい街並み」とセットで全世界に中継された。そもそもロンドン五輪は、ロンドンという街のプロモーションイベントであるという位置づけが明確にあった。
ロンドンの中心部を流れるテムズ川の、最も街が美しく見える位置にあるタワーブリッジに五輪マークを掲げたのも、その五輪マークを撮影すれば確実に、マスメディアだけでなく、個人のSNSなどでもその象徴的な写真が繰り返し人々の目に触れることになる。日本の庭園にも借景があるが、ロンドンはまさに都市を借景としたのだ。
――五輪開催期間中の公共交通機関の利用は徹底されていましたか。
競技のチケットにロンドン市内の地下鉄1日無料乗車券を付けていたことで、利用が促された。ロンドン交通局との折衝がうまくいったのだろうが、交通機関がある程度身銭を切ってでもそうすることで、スムーズに人を動かすことができた。観戦だけでなく、さらに観光で市内を巡る動機付けにもなった。
また、ロンドンでは公共レンタサイクルがとても使い勝手がよく、五輪観戦にもだいぶ使われていたと思う。自転車を借りたり返却したりするステーションが市内各所にあり、1日2ポンド(=約300円)で登録すれば、30分以内なら何度でも追加料金なしで利用できる。移動した先のステーションで返却し、観光や食事をして、また借りて乗って、という使い方ができる。
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