東京電力は分割・破綻処理するべきだ 野村修也・中央大学法科大学院教授・弁護士に聞く

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――債権調整で債権や株式の毀損割合を決めるうえでの基準は。

「3.11」の前後で分けるべきだ。つまり、原発事故の段階で東電はいったん破綻したのだと考える。だから、3.11時点で債権は毀損したものと見なすべきだ。その代わり、銀行は震災直後に2兆円近く緊急融資をしているが、それは(東電を破綻させないという)国の方針を信頼し、国家の危機を防ぐために無理をして融資をしたものだから、毀損させない。

――株式はどう分けるか。

株式は時期では分けられない。そのため、現在の東電の株主が2つの(分割した)会社の株式を両方持つ形にする。人的分割というやり方だが、まず会社をひとつ切り出す。資産ベースで何パーセント切り出されるかによって、毀損する株式の割合が決まる。

つまり、切り出される事故処理(廃炉と除染)専門会社にどれだけの資産が必要になるかによる。株式の現物出資と同じで、切り出した分の対価が株式で渡されることになる。切り出された会社は破たん処理され、その株式は100%減資となり、代わって国が出資する国営会社になる。そうして国が100%責任を持って、最後まで事故処理を行う。

もうひとつの会社は新生・東電として、電力事業を行う。ただ、被災者に対する損害賠償の責任は最後まであるため、賠償債権は負債としてこれまで通り払い続ける。今までよりも健全な会社になるため、支払いは確実になる。電力債も新生・東電が償還を続け、新たに発行もする。債券市場に悪影響を与えることはない。

――国営化する事故処理専門法人はうまくやっていけるか。

今、劣悪な環境の事故現場で苦労して働いている人たちは、公務員として身分保障や社会保障がしっかりする。国難に立ち向かい、国民からリスペクト(尊敬)される存在にする必要がある。

廃炉技術も蓄積され、将来は事業としての発展の可能性もある。世界中の原発には耐用年数があり、廃炉はいつか必要となる。その際に、福島で培われた廃炉技術が提供されることになる。ここで経験を積んだ人たちは、ものすごいビジネスチャンスに恵まれることになるだろう。世界中の研究者がやってくるはずだ。その受け入れの研究施設を作って、世界の英知を集まれば、廃炉技術はますます世界最高水準のものになる。

将来は、国内外からこの事故処理専門会社を買いに来る会社も出てくるだろう。そうすれば、国が投資した税金が回収されることになる。

原子力発電所は売却するべき

――電力会社としての新生・東電はどうか。

日本最高の電力会社となる可能性がある。もちろん、事故責任は最後まで負わなければならないし、東電社員としても、そこまでピカピカの会社のなることに後ろめたさがあるだろう。そのため、やはり資産はできるだけ売却し、スリム化する。発送電分離も徹底し、原発も手放すことも考えられる。柏崎刈羽原発はもともと東北電力の営業エリアなのだから、譲渡するという手もあるだろう。

一方で、日本の再生可能エネルギーの最先端技術を展開していく会社を目指すべきではないか。それが、東電としても禊(みそぎ)になるだろう。そもそも再生可能エネルギーの技術はものすごいビジネスチャンスであり、ここにも優秀な人材が集まるはずだ。東電が日本のエネルギー政策のフロントランナーとなれば、ほかもついて来る。そうした図式を描いていけば、誰も違和感の残らないスキームになるのではないか。

――債権を切り分けるには、新たな法律が必要か。

「東京電力再生特措法」のような特別措置法を制定し、その法律に従って、強制的に債権の切り分けが行われる。法律で強制的に債権調整をする形だから、銀行も株主代表訴訟を受ける心配もなく、負担に応じやすい。

――あとは誰が主導して、行動を起こすか。

それは結局、総理だ。総理が国の行く末を考えてやるべきだ。このスキームには、国が無尽蔵にお金をつぎ込むのではなく、将来的に税金を回収できるという可能性が含まれている。逆に、今のスキームでは何の見通しも立たない形で、無尽蔵に税金を投入するだけ。スキームの作り方によって、国民負担はまったく違ってくることを知るべきだ。

(撮影:今井康一)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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