東京電力は分割・破綻処理するべきだ 野村修也・中央大学法科大学院教授・弁護士に聞く

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――最初から原賠法16条の解釈を誤っていたと。

本来なら、東電を破綻処理して株主や銀行などの責任をとらせて、そのうえで税金を投入すべきもの。責任をとらないままの関係者がいるということは歪んでいる。このことは、私は震災直後から問題点として投げかけていた。

――機構法は附則で「政府は早期に原子力事業者(東電)と政府、株主その他利害関係者(銀行など)の負担のあり方を含め、必要な措置を講ずるもの」としている。

やはり、最初に玉虫色のままスタートしたからだ。当時は、賠償費用にどれだけ費用がかかるかわからなかった。それで中途半端に東電の責任にしておいたのだが、株主も債権者も責任を負わないまま、大量の税金投入になるということに、将来おそらく納得できない時期が来るだろうと見越していたと考えられる。 

のむら・しゅうや●1985年中央大学法学部卒業、89年中央大学大学院方角研究家博士後期課程中退、西南学院大学法学部専任講師、92年同助教授、98年中央大学法学部教授、2004年から中央大学法科大学院教授。04年弁護士登録。森・濱田松本法律事務所客員弁護士。金融庁顧問(金融問題タスクフォース・メンバー)、東京電力福島原子力発電所の国会事故調査委員会委員などを歴任。

――破綻処理には各方面から反対論も強い。

破綻処理すれば、一般担保付きの電力債が優先弁済を受け、劣後する被災者の賠償債権が毀損するという懸念は当時からあった。ただ、会社更生手続きにおいても、電力債の弁済については調整可能だ。基本的には和解なので、被災者の弁済が優先される場合もありうる。仮に被災者の債権が劣後して損害賠償が足りなくなった場合は、そういう時こそ国が支援すべきである。

また、破綻処理すれば、電力債が毀損し、社債などのマーケットが混乱するという“脅し”のような反対論もある。JALの処理の時などもそうだった。だが、必ずしもそうはならなかった。

ただ、私は破綻処理するとしても、分社化を前提したスキームを目指すべきだと考えている。東電にも株主にも、債権者にも言い分はあるだろう。私は国会の事故調査委員会の委員として「福島事故は人災だった」という取りまとめをしているが、人為的ミスがあったのは確かだが、100%人災だったとは言っていない。

債権者としても、東電が丸ごと責任を負うということに納得感はないだろう。巨大津波が原因だったのは事実だし、当時の松永(和夫)経産事務次官と密約があったかはともかく、震災後に銀行が東電に追加融資をした判断には、日本の危機を救わなければならないという思いもあっただろう。それを、破綻だからすべて負担せよというのはどうかということもある。

株主にしても、債権者にしても、責任ゼロはない。かといって、責任100%ということもないだろう。だとすれば、ここは「債権調整」として、何%までの責任があるのかを議論できるように分社化というスキームを考えるべきだ。

将来回収できる可能性

――分社化のメリットとは。

分社化には株主や債権者が債権の毀損を受け入れやすい要素がある。一つの会社が(破綻処理しないまま)残るため、その会社で将来(毀損した債権を)回収していける可能性がある。回収可能性を将来に振り分けるだけなので、債権者として受け入れやすい。残った債権については、銀行は少し融資金利を上げることにもなるだろう。

株主のほうも、人的分割によって、一部分は毀損するが、破綻処理しない会社の株式が割り当てられる。その会社の株価が将来上昇すれば、失った利益を回収することがやはり可能となる。

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