養豚業の「ブタの体重測定」をAIが変えるか 「儲からない、しんどい」を変えるデバイス
ところで、なぜAIの活用に至ったのか気になります。日本の養豚業にはどのような課題があるのでしょうか?
「10年前の1998年の豚肉年間消費量は、国民1人あたり10.4kgでしたが、2017年には12.8kgに増加。その一方で、国内の養豚業は、高齢化や担い手不足により、従事者数が減少しています。
飼養戸数の減少は1戸あたりの飼養数増で補っており、1戸あたりの飼養数は2008年には約1,348頭でしたが、2017年には約2,001頭と、約1.5倍の増加を見せています。
これにより、豚肉自給率は50%ほどに保たれています。今後も飼養戸数の減少は続く見込みで、自給率を維持するためにも、大規模で効率的な飼育が求められます」(冨田さん)
大規模で効率的な飼育を進めるポイントは生産性の向上と人手に頼る作業からの脱却だといいます。
体重管理でタイミング逃さず出荷し、売上増加にも貢献
豚の体重管理が効率的な飼育へと繋がるのでしょうか?
「体重管理は収益率アップに直結しています。上位ランクの格付けで出荷するには、70キロから80キロの出荷体重に調節する必要があるのですが、80キロ以上になってしまうと、肉質がよくても等級がダウンしてしまいます」(冨田さん)
ただ出荷体重が重ければ良いという訳ではないのが難しいところ。養豚家からすれば、70キロから80キロのベスト出荷体重になった豚をタイミングを逃さず出荷し、等級ダウンは避けたいところです。
「しかし、豚の体重測定にはかなりの時間がかかります。実際に計測したところ、豚の扱いに慣れた男性2名でも1頭あたり約3分を要することがわかりました。
新人作業者ではさらに作業時間が増えます」(田中さん)
100頭測定するのに約5時間以上もかかり、その日の作業のほとんどを体重測定に費やしてしまうことに……。
1週間に数百頭を出荷する一般的な養豚家を想定すると、全頭を体重管理するのに相当な人件費がかかり、決して効率的な飼育とは言えません。
AIは日本の食糧事情を救うか?
「デジタル目勘を使用すれば、ブタの扱いに不慣れな女性1名でも、1頭あたり約1分で体重推定ができます。
少ない手間で体重管理ができれば、いつもベストなタイミングでブタを出荷できます。
最適な出荷で収益率がアップするだけでなく、削減された作業時間で飼養数を増やし、圃場の大規模化を進めることができます。
ブタは前にしか進めないってご存知でしたか?その影響もあり、ブタを体重計まで移動させるのは、慣れていても重労働。熟練作業者の身体的負担も減らすことができます」(田中さん)
ブタの体重測定というピンポイントな需要でも、若者離れが進む第一次産業の「儲からない」「しんどい」といったイメージ、課題を着実に解決している事例がデジタル目勘。
現在、デジタル目勘は開発中ですが、今後どのように発展していくのか、ほかの領域へ横展開していくのか、注目していきたいところです。
(取材・文:金田 捺)
Ledge.aiの関連記事
人工知能は人間の舌を攻略できるか? チョコレート開発からレシピ提案まで「AI × 味覚」サービスを一挙紹介
【富士ソフト】AI時代の生存戦略 ── 眠るAI人材を発掘し、育てなければ未来はない
AIで豚の鳴き声から病気を検知する。産総研発ベンチャーHmcommが熊本の農業高校と実証実験開始く
【東大・松尾研発iLect】数学・プログラミング知識不要「DL4Biz」提供開始 ── もう“AI”という言葉に振り回されない
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら