武田薬品、巨額買収承認後に待ち構える不安 臨時株主総会で欧大手シャイアー買収を可決

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ウエバー社長の最初の野望はかなった格好だが、問題はむしろこれからだ。

まず、2019年1月8日には買収手続が完了する。英国ルールを盾に、反対派が開示を求めてきた統合後の収益予測を開示しない理由はなくなる。買収報道が浮上した2018年3月下旬当時のシャイアー株に対し、6割以上も高い価格で今回の買収を強行した合理性がはたしてあるのか。数字を元にきちんと説明する必要がある。

シャイアー買収により、買収後の新会社の有利子負債は約6兆円に膨らみ、短期的に財務内容が悪化することは否めない。武田側が言う通り、高収益であるシャイアー統合後のキャッシュフローで、3~5年後に「有利子負債/EBITDA(利払い・償却・税金計上前利益)」倍率を買収完了直後の5倍弱から2倍以内に下げられるのだろうか。

さらに、買収で株数が倍増しても、180円配を維持すると経営陣は半ば公約のごとく繰り返してきたが、これが実現可能なのかどうか。1期限りでなく、今後も持続的に180円配を実現するには、経営陣がいう「実質の利益」でなく、財務会計上の利益を株数で割った1株純益が180円以上になるかが重要になる。

「公約」の180円配は実現できる?

これは反対派がとりわけ重要視しているポイントだが、武田は臨時株主総会の直前になってやっと、財務会計ベースの1株利益が「3年以内に増加させる見込み」であることを明らかにした。2年目までは1株利益が増加しない可能性を初めて認めたわけだ。

考えて見れば当然で、統合によって3兆円超の有利子負債が加わり、利払い費用は金利3%として新たに1000億円近く膨らむ。のれんや無形資産も3兆円近く拡大する。そのうち毎期償却費が発生する無形資産は2兆円近くとなる模様だ。となれば、10年償却として毎期2000億円近い償却費が加わることになる。さらに、統合費用は3年間で2600億円と見積もられている。

統合費用が初年度に厚く、1000億円出ると考えれば、統合により費用は合計約4000億円膨らむ計算だ。シャイアーの推定税引き前利益3200億円を上回る。武田が目論むように、統合効果を初年度に仮に500億円とみても、なんとか埋まるレベルだ。

株数が倍増するなら、利益も2倍にならない限り、財務会計上の1株利益は減るのは当然だ。統合初年度となる2020年3月期は、期間損益で配当原資が捻出できない、いわゆる「タコ足配当」になるおそれがある。

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