無責任政治により失われた「財政均衡」の正論 利益誘導政治でツケは将来世代に

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こうした状況を打開するにはどうすればいいのか。建議は「政策決定の場において、将来の世代の利益を代弁するものがいないということは、これまで必ずしも大きな問題として捉えられてこなかった。しかし、我が国の歴史的な財政状況の悪化は、まさに将来世代の代理人が今必要であることを明らかにしている」と問題提起している。そして、「当審議会は現在の納税者の代理人であるとともに、将来世代を負担の先送りによってもたらされる悲劇から守る代理人でありたい」と締めくくっている。

現在の財政は国債というツケを次の世代に負わせているだけでなく、歳出が高齢者に偏っているといわれている。高齢者の人口が若い世代より多いうえ、投票率も高齢者のほうが多い。当然、各政党や候補者が高齢者を優遇する政策を打ち出す。その結果、若い世代の声が政策に反映されにくくなる。それがいわゆる「シルバー民主主義」だ。

与野党ともに高齢者に都合のよい状態を放置

現状を放置できないと、議会に各世代の代表を公平に送り込むための選挙制度案が研究者らによって提案されている。

選挙権のない子供を持つ親がその子供の数だけの投票権を行使できる「ドメイン方式」、あるいは人口数に比例して世代ごとに議席数を定める「年齢別選挙区制度」、さらには平均余命に応じて一票の重みを変える「余命投票方式」などがある。残念ながらこうした制度を取り入れた国はまだない。日本でも政治の世界で真剣に議論されたことはない。現状維持が高齢者にとっても各党や議員にとっても最も居心地がいいのだ。

財政制度審議会の建議が出された同じタイミングで、欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会がイタリアに対する制裁発動に向けた手続きに入ることを決定した。イタリア政府が編成した予算案の赤字が大きすぎてEUの財政規律に反しているというのがその理由だ。

EUの対応の是非はともかく、EUには加盟国の予算をチェックし問題があれば警鐘を鳴らす仕組みがある点がおもしろい。過度に国債に依存する国に対し制裁をちらつかせるのだから、その国の国民はいやがうえにも問題意識を持つだろう。

残念ながら日本にはそうしたチェック機能が内にも外にもない。国会では与党以上に野党も財政規律に鈍感である。2009年からの民主党政権時代、歴代内閣が自民党以上に大量の赤字国債を発行したことは記憶に新しい。政治主導を理由に財政制度審議会をストップさせたのも民主党政権だった。

与野党ともに大きな政府論や積極財政を掲げている国は、主要国では稀有である。財政規律を棚に上げ、国債発行に歯止めがかからない状況の行く先が、国民にとってどれほど過酷なものになるか。そうした議論さえタブーのようになっている。危ういことこの上ない国である。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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