電気を捨てる「ムダ発電」はこれで根絶できる 九州「太陽光発電の停止」はもったいない

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山梨県では、この実証に先立って、太陽光発電の出力安定化を目指した蓄電システムの研究開発に取り組んできた。

数秒~数十秒周期で変動する短周期変動は、電気2重層キャパシタ(注1)や超電導フライホイール(注2)で充放電を繰り返す。少し長めの中周期変動はリチウムイオン電池やニッケル水素電池に蓄電(および放電)し、さらに長い長周期変動はP2Gで水素に変えて電力貯蔵する。この組み合わせによって、出力変動の激しい太陽光発電でも系統接続しやすい安定電源化することができる。同時に、水素を製造する水電解装置も短周期の変動を受けないで済むため、電解効率の向上や装置寿命の長期化が可能になるという。

(注1)電気2重層キャパシタは、電気2重層という物理現象を使って蓄電する物理電池。瞬時の充放電が可能で、出力変動の激しい再生可能エネルギー発電の変動調整用にはうってつけの蓄電システム。
(注2)フライホイール蓄電は、大型の円盤(フライホイール)をモーターで回し、電力を回転エネルギーとして貯蔵。キャパシタ同様、瞬時の充放電ができ、円盤を大きくすれば大容量の蓄電が可能。超電導技術を適用することで摩擦・抵抗がなくなり、高いエネルギー効率が得られる。

山梨に続き北海道でもプロジェクトが始動

風力発電のポテンシャルが高い北海道でも、P2Gプロジェクトが始まっている。

道北の日本海に面した苫前町(とままえちょう)の町営風力発電所(夕陽ヶ丘ウィンドファーム)を舞台に、豊田通商、NTTファシリティーズ、川崎重工、フレイン・エナジー、テクノバ、室蘭工業大学の5社1大学が進めるプロジェクトは、2030年以降のFIT(固定価格買取制度)時代後を想定して、系統制約を受けた「FIT切れ風力」の活用を図るものだ。

風力発電量予測システムで翌日の風況・発電量予測を行い、安定電力は系統に売電。不安定電力で水素を製造し、「グリーン水素」(注)として販売する。

この実証事業では、①風力発電予測システムの予測精度と、売電する電力量と水素製造にまわす電力量の最適配分、②変動の大きな風力発電電力に対する水電解装置の性能、③水素輸送(有機ハイドライド法)のための装置・機器の性能、などを検証する。

(注)グリーン水素とは、一般的には再エネ由来水素を指す。ヨーロッパでは、天然ガス改質による水素製造時のCO2排出量に比べ、60%以上低いものを「グリーン水素」、それ以外を「グレー水素」とする基準がある。

東北の被災地では、震災で深刻なエネルギー問題に直面した経験から、非常用電源などで水素を有効活用する取り組みが進んでいる。

東北大学は10月25日、「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」による実証の結果、大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)の連続運転に成功したと発表した。

この実証プロジェクトは、東北大学が前川製作所などの協力を得て、仙台市の茂庭(もにわ)浄水場内に太陽光発電と水素貯蔵を組み合わせた複合システムを構築し、2017年8月から運用開始したものだ。

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