経営不在を改めればオーケストラは甦る 平井俊邦・日本フィルハーモニー交響楽団専務理事
--なぜ、日本フィルハーモニー交響楽団のマネジメントに携わるようになったのでしょうか。
2年ほど前に、かつて一緒に仕事した商社の方々から「企業再建の経験を生かして、日フィルの経営にアドバイスをしてくれ」と言われたのがそもそもの縁です。月1回ぐらいボランティアでアドバイスをしていたが、中身を見ると片手間でやれるものではないことがわかった。そこで昨年7月から専務理事としてフルタイムで働くことになりました。
なぜ畑違いの仕事を引き受けたのか、というふうによく聞かれるので、自分で整理してみたのですが、格好よく言えば使命感です。日フィルに来て最初に驚いたのは、楽団員の処遇の悪さ。日本を代表する音楽団体の一つでありながら、年収は平均でおよそ400万円です。平均年齢40歳をはるかに超えた人たちが、上場企業の若手社員がもらう程度の給料しかもらっていないんです。
いったいこれでいいのだろうか、と考えさせられました。日本は経済成長により、企業も、企業に勤めている個人も潤いました。しかし、文化は潤っていない。日本は、文化を置き去りにして高い経済成長を実現してきたようなものです。これを見直す必要がある。経済をやってきた者として、何らかの貢献をできればと考えています。
--民間企業の常識から見ると、非営利団体の経営は、異なる点が多いでしょうね。
そうなんです。もう一つ驚いたことは、財政の厳しさです。累損が数億円もあり、経常収支も赤字が出ている。台所は火の車になっているのに、ちゃんとした対策を行っていない。まずはここを何とかしなければ、処遇の改善はできません。
苦しくなった理由は何かというと、一言で言ってしまえば経営の不在です。日フィルでは楽団員全員の集会が最高位の決定機関になる自主運営方式を採っています。もちろん楽団員が自分自身で意思決定を行うことにより、芸術家主導による自立した経営を行える、というよさもあったのでしょう。しかし、どうしても採算に対する考え方が甘くなってしまう。外部に対してしっかり説明できる経営をしなければ、企業からの支援も得られなくなり、立ち行かなくなる。ですから、理事会を核とした経営体制を確立して、経営不在から脱する必要があります。
--もうすでに経営体制は切り替わったわけですね。
まだ移行期です。この1年間、できるだけ楽団員の人たちと対話を続けてきた結果、相互の信頼関係は築かれつつあると感じています。お互いの信頼関係がなければ、前には進みません。
楽団員による自主運営から新体制へ変えるというのは、大きな転換です。こちらから押し付けるものではないので、彼ら自身で決断してもらう必要があります。重要な決断ですのでせかしたくないのですが、私からは年内には決断してほしいと伝えています。
--自主運営から理事会による経営に切り替えるメリットを明確に見せるために、平均年収400万円を引き上げるなどの好条件を示しているのですか。
それはできませんね。しかるべく改革を実現した後でなければ、とてもではないが難しい。そのことは、多くの楽団員がわかっているはずです。しばらくは苦しいかもしれないが、今が日フィルが変わるチャンスだと感じてくれていると思います。もちろん、これは私の思い上がりで、幻想に終わってしまうのかもしれません。これは冗談ですが、日フィルは(ベルリオーズ作曲の)「幻想交響曲」が得意なんです(笑)。
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