焦点:中国の中小企業向け融資は見かけ倒し、国営企業に流出も

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11月19日、中国政府は経済構造の改革に資するため、資金の流れを大手国営企業から中小企業へと移す戦略だが、見かけほどの成功は収めていない。安徽省合肥の銀行で2010年3月撮影(2013年 ロイター)

[上海/温州 19日 ロイター] -中国政府は経済構造の改革に資するため、資金の流れを大手国営企業から中小企業へと移す戦略だが、見かけほどの成功は収めていない。

政府の命令で中小企業向け融資額は増えているが、実際には抜け穴を通じて国営企業に貸し出されていたり、借り手が地方政府所有の企業だったりする場合もある。金融セクターのリスクを軽減するどころか深刻化させかねない。

中国は先週発表した経済・社会改革で、国家の支配的役割を維持しながら金融市場を改革する方針を示したが、中小企業向け融資の実態は改革実行の難しさを物語っている。

温州大学城市学院のファイナンス学部長、YeXixi氏は「中小企業の資金調達難を和らげるため、政府のあらゆる階層が長年努力してきたにもかかわらず、大して改善はみられない。事実、ここ数年は悪化の兆候さえある」と話す。

中国の銀行規制当局の定義では、中小企業は資産が1000万元(160万ドル)未満、もしくは年間売上高が3000万元に届かない企業を指す。

エコノミストの推計では、中小企業は中国の国内総生産(GDP)の70%、雇用創出においては80%を占める。このため多くの改革推進派は、将来の中国経済をリードするのは非効率な大手国営企業ではなくこうした中小企業だと言う。

中国政府は現在の信用集約型、国家主導型の経済モデルからの転換を図る上で、国内消費者向けのサービス販売に重点を置く、小回りが利いて革新的な企業を求めている。

<ミスマッチ>

起業家精神の旺盛な温州市では、融資確保に苦慮する中小企業のニーズに応えるべく「温州民間貸し出しサービス・センター」が設けられている。

センターのXuZhiqian所長は「融資需要は非常に大きいが、貸し手は大半の借り手に融資しようとしない。リスクが大き過ぎると考えているのだ」と話す。

所長の説明によると、潜在的な貸し手がプールした資金のうち、実際に融資に向けられるのは約半分だ。

全国的に見ると、中小企業向け融資の公式データは政府の命令通り増えているが、なお融資総額の約20%止まりで、中小企業の生産量に比べて小さい。

<抜け穴>

確かに中小企業向け貸し出しは銀行にとって悪夢だ。経営状態の評価が難しく、資産は少なく、景気の風向きが変わるとすぐに転覆する。

銀行関係者によると、実際には国営企業に貸し出しながら、政府が決めた中小企業向け融資割り当てを満たすための抜け穴は複数ある。

中国交通銀行のローンオフィサーは「当行は国有だ。国営企業との関係は兄弟のようなものだ」と指摘。「中小企業が国営銀行から融資を得られないのはこのためだ。それらの中小企業が良いか悪いかの問題ではない。兄弟ではないから差別しているのだ」と言い放った。

やはりローンオフィサーである国営銀行筋は、銀行は融資実行に当たり、リスク審査よりも担保に頼ってきたと説明。多くの銀行が中小企業向け貸し出しを控えてきたのは、リスク評価が不可能なことが理由だと述べた。

この結果として、国営企業の子会社向け融資や、背後に国営企業がいる小規模な納入企業向け融資など、さまざまな会計上の工夫を駆使して国営企業向け融資を中小企業向けのように装うことが行われている、とこの銀行筋は話した。

<下位の市場>

市場志向型経済の国々と異なり、中国において中小企業(SME)は民営、効率性、イノベーションといった言葉と同義ではない。多くの中国中小企業は地方政府が保有、管理しており、太陽光や造船、鉄鋼など設備過剰に見舞われたセクターに属している。

従って、これらの企業が債務まみれであったり、事業の見通しが暗かったりしても、最終的には納税者が返済してくれることが分かっているため銀行は資金を貸し出す。

Jキャピタル・リサーチのマネジング・プリンシパル、アン・スティーブンソン・ヤン氏は、地方政府の資金調達機関でさえ中小企業に定義されると指摘する。

スティーブンソン・ヤン氏によると、国営企業向け貸し出しから締め出された中小規模の中国銀行の多くは、中小企業向け融資資金を取りまとめる協会への貸し出しといった「下位の市場」へと活躍の場を移した。しかしこうした貸し出しが純粋な中小企業の手に渡ることはまれ。「一般に、こうした協会は融資を中小企業に渡さず、より高い金利で不動産デベロッパーほかの魅力的な標的に貸し出している」という。

<直接金融も機能せず>

代替的な資金調達の経路もほとんど成功を収めていない。

中小企業の社債向けに設計された「ジャンク債」市場は休眠状態。残高は中国国内で発行される社債全体の0.5%に届かない。

株式店頭市場として登場した「新三板」は、投資家からも企業からも不審がられてそっぽを向かれ、失敗に終わったも同然だ。

投資銀行チャイナ・ファースト・キャピタルのピーター・ファーマン会長は、ジャンク債と新三板の投資家は、国営企業が発行体に保証を与えている場合にしか関心を寄せないと述べた。

(Pete Sweeney、 Gabriel Wildau記者)

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