「マカロン」を日本人に知らしめた男の機微 ピエール・エルメは、なぜ日本で成功できたか

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とはいえ、すばらしいパティスリーを作る会社はたくさんある。その中にあってピエール・エルメが特別な存在となった秘訣は、圧倒的なマーケティング力にあるのではないか。実際、同社はパティスリー作りと同じくらいの情熱をマーケティングに注いでいる。

「私たちは『味のコミュニティ』に生命を吹き込む役割を担っている。毎日のように、どうすれば生命を吹き込むことができるかを自分に問いかけているんだ」と、ピエール・エルメのマーケティング・ディレクターを務めるリシャール・ルデュCEOは話す。

「クリスチャン・ディオール、ザ・リッツ・カールトン、ANA以外にも、アーティスト、画家、フラワーアーティスト、イラストレーターなどと共働することでそれを実現している。私たちは交流を創造しているんだ」

高価な一般品ではなく、手頃なぜいたく

ルデュ氏が同じく青山でビジネスを展開する、フラワーアーティストの東信氏と固い絆を築いたのもそのためだし、人気デザイナーの片山正通氏に青山店の設計を依頼したのも同じ理由からだ。同氏はまた、ブランドを育て、他に先駆けて新しいスタイルを提示するために、オートクチュールのように毎年「コレクション」を展開してきた。

中には「値段が高い」と批判する人もいる。しかし、ルデュ氏にとって同社のパティスリーは、高価な一般品というよりは、手頃なぜいたくなのである。「最高のパティスリーは、高級料理よりもずっと簡単に手が届く。格別の体験を、非常に手頃な値段で提供することができるんだ。私たちのサービスには無料で提供しているものもあり、たとえば青山やシャンゼリゼの店舗では、ケーキの作り方を見せたり材料についてお話したりしている」。

「とはいえ、実際には今の価格は安すぎるかもしれない……。賃料、原材料費、賃金、トレーニング費用が上がっている中で、商品だけは値上げしていない。いつか成り立たたなくなる日が来るだろう」

もちろん、この20年つねに順風満帆というわけではなかった。

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