「マカロン」を日本人に知らしめた男の機微 ピエール・エルメは、なぜ日本で成功できたか

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また、「Made in ピエール・エルメ」と食料品高級ブランドも始める予定で、ビールや酒、ソースなど日本の食品およそ50品目にスポットライトをあて「ピエール・エルメ版」を展開するとみられる。ピエール・エルメの認知度は海外でも高く、将来的には海外での販売も考えられる。

人脈ではなく、才能で成功を手にした

さらに来年には、新たなパティスリーとケーキのコレクション「アンソロポロジー」を始めることももくろんでいる。エルメ家で1870年から作られていた伝統のレシピを再現する考えで、「自分自身の仕事のルーツに戻ると同時に、自分の故郷の伝統菓子をよみがえらせたい。なんせエルメ家は4代にわたるパティシエだから」とエルメ氏は言う。

ピエール・エルメ氏(編集部撮影)

エルメ氏は、日本にいるほかの多くの外国人同様、この国で人脈ではなく才能によって成功を手にした人物である。日本は、外国人から見ると今なお閉鎖的な国だが、その一方で、外から来た人間は自分が働く業界に電気ショックのような刺激を与えることができる。そして、結局のところ、日本でも圧倒的な才能を持った人は評価されるのである。それがどこから来た国の人であれ。

外国人が日本で成功した例は、ほかにもある。20年前に神楽坂にフランス料理店をオープンしたラーシェ・ベルトラン氏もその1人だ。今では日本とフランスで併せて15店舗とバーを展開するほか、フランスでは学校も経営している。

ベルトラン氏もまた、エルメ氏のように日本で成功する秘訣を心得ており、日本の潜在性を最大限活用した。実際、彼のレストランで提供される料理には、日本の食材がふんだんに使われている。故郷のブルターニュにあるレストラン(ミシュラン1つ星を獲得している)では、日本人シェフが日本とフランスのレシピ、それに地元の食材を使った料理を提供している。

日本は今も、ベルトラン氏にインスピレーションを与えてくれる、と同氏は言う。「ブルターニュには、ジャガイモもキャベツも豚肉もあるが、フライドポテトもギョーザも作られていいない。そこに価値があるのに。それなら、フランスでギョーザを作ろうと。そうしない理由なんてないだろう」。

エルメ氏やベルトラン氏は、日本にも「ジャパニーズ・ドリーム」があることを体現した。こうした成功者たちの名が世界に知れ渡ることは、より有能な人材を日本に引き寄せると同時に、日本の重いドアを開くきっかけになるかもしれない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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