ホームドア普及へ奥の手、運賃値上げ案浮上 鉄道会社と利用者のどちらが費用を負担?

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コストがかかるのは設置だけではない。ランニングコストはもちろん、設置から一定の年月が経てば部品の更新費用なども必要だ。

東急では、目黒線のホームドアが設置から18年が経過している。定期的な補修で老朽化はほとんど見られないというものの、可動部品の交換や清掃など「メンテナンスのコストは結構かかる」(村上課長補佐)。市営地下鉄全駅にホームドアを設置している横浜市交通局は、2018年度予算で6駅のホームドア部品更新に約1億900万円を計上している。

国土交通省の試算によると、JR本州3社と大手私鉄16社、公営地下鉄8者のホームドアやエレベーターなど駅のバリアフリー施設の維持や更新にかかる費用は、2018年度以降毎年おおむね600億円。このうちホームドアの維持・更新費は3分の1程度を占める計算で、今後は設置だけでなくこれらの費用も課題となってくる。

設置だけでなく、その後の運用も鉄道事業者には負担となるホームドア。だが、国や自治体の財政事情にも決して余裕がない中、補助にも限界がある。そこで検討されているのが「利用者負担」制度の導入だ。鉄道事業者や有識者、消費者団体などでつくる国交省の検討会は9月28日、ホームドア整備を含む鉄道のバリアフリー化について、利用者にも一定の負担を求めることができる新たな料金制度の導入を提言する報告書を公表した。

利用者負担は実現するか

提言されたのは、ホームドアの普及や乗り換えルートの段差解消、エレベーターの容量拡大などを対象として、設備の整備費用などを超えない範囲で利用者から徴収する「更なるバリアフリー加速化料金(仮称)」案だ。

国交省による全国4000人を対象とした調査では、運賃へのバリアフリー化料金上乗せについて約6割が賛成。「1回の乗車あたり少なくとも10円の上乗せは妥当」と考える人の割合は、20~64歳では69%、65歳以上では77%にのぼったという。

また、1000人を対象に昨年度行った調査では、週1回以上利用している駅へのホームドア整備に対し、支払ってもよいという「支払意思額」は1乗車あたり21.3円との結果が出ている。

国交省によると、対象に維持・更新費を含むかどうかや、料金を上乗せする範囲をどうするか、またICカード乗車券利用の際の技術的検証など、具体化に向けた詳細は今後詰める方針だ。

ホームドアを含むバリアフリー設備の整備拡大には大きな力となりそうな利用者負担制度。一方で料金上乗せは実質的な運賃値上げとなることから、利用者の反発を招いたり、鉄道会社の競争力を削いだりする可能性もある。

検討会では、鉄道事業者による「受益が限定的で利用者の理解を得づらい」「国が責任を持って理解を広く国民に求める必要がある」といった意見や、消費者団体から「既存の補助制度の拡充により進めるべきではないか」といった声もあったという。

ホームでの列車との接触や転落は、誰もが当事者になる恐れのある事故だ。日常の安全にかかるコストを誰が負担するのか、今後は利用者の認識も問われることになりそうだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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