家族の絆を美化する「毒親ポルノ」の怖いワナ 「まだ親を許せないの?」は言葉の暴力だ

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――世間は「家族の絆」を過剰に美化する方向になりつつもありますね。

テレビや映画のように、本よりもっとマスなメディアになると、親子の物語は「最後はわかりあえてよかった」というハッピーエンドが圧倒的に多いですよね。原作がそうじゃないものでも、ドラマ化されるとそんな結末に書き換えられてしまう場合もある。

『毒親サバイバル』で取材させていただいた文筆家のアルテイシアさんは、そういった現象を「毒親ポルノ」という言葉で表現されていました。
そして毒親ポルノのドラマを見て感動する視聴者の中には、親から逃げてきた元・子どもに向かって「あなたもいつまでもトラウマとか言ってないで、親を許してあげたら」と言い出す人が必ずいるんです。善意のつもりのその言葉が、なんとか逃げて生き延びてきた元・子どもたちをどんなに苦しめているのか、どうか想像してみてください。

ずっと虐げられてきた子どもの視点に立って考えたら、「許してあげなよ」なんて絶対に言えないはずなんです。毒親という言葉はそもそも『毒になる親』(スーザン・フォワード)という本が由来なのですが、親子間の虐待について書かれた『魂の殺人』(アリス・ミラー)というロングセラーの名著にもあるように、親から「魂を殺された」子どもは決して少なくない。

そう考えたら、「殺人者だけど許してあげなよ」なんてことは絶対に言えませんよね。殺人者に「孫の顔を見せてあげなよ」なんて言う人はどこにもいません。歳月が経ったからといっていじめっ子を好きになることがないように、自分をいじめておいて謝罪も何もない人間を、親だからという理由だけで許す必要なんてないし、それでいいんです。

親は子に有責、子は親に免責でいい

――親子の関係は一般論ではくくれない。毒親の被害を受けた人も、そうでない人も、そこに気づくことが始まりかもしれません。

幸せな家庭で育った人には、毒になる親・家庭もあるんだ、ということを知ってもらうだけでもいいんです。親からひどい目に遭わされて育った私たちも、「そういう幸せな家庭もあるんだな」という事実を事実として受け止めるので。

毒親育ち同士だと、つい「ひどい目に遭った人同士じゃなきゃわからない」と閉じてしまいがちになるし、私自身もその気持ちはすごくわかる。でも本当はただ育ってきた環境が違うだけの話であって、どちらかが無知だとか偉いとかではないんですね。どちらもマウンティングしあうのはやめましょう、ということは伝えたいですね。

『毒親サバイバル』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

――子どもは、親側の事情を汲み取らなくていい?

親は子に対して責任はありますが、子は親に対して免責。「親を嫌いになる」ことも免責の範囲内です。お互いが大人である配偶者間は有責だけど、子は免責でいいと私は思っています。

親が暴力を振るった背景には、もちろん何か理由があるのでしょう。暴力を振るった親の気持ちに寄り添う周囲の人はいてもいいんです。でも殴られた側である子どもが、殴った親に思いを寄せる必要はまったくない。ましてや、感謝なんて絶対にしなくていい。そこから生き延びただけで、今生きているだけで十分ですよ。そのことを、これからもマンガを通して伝えていけたら、と思っています。

菊池 真理子 漫画家

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きくち まりこ / Mariko Kikuchi

埼玉県生まれ。2017年、アルコール依存症の父と家族のノンフィクションコミック『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)が大きな話題に。

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