日本人が知らない南北首脳会談「意外な成果」 南北トップ2人が放った渾身の一打とは

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仮にこれらの施設がすべて閉鎖されれば、核兵器の材料となるウラン235およびプルトニウム239に関する北朝鮮の生産能力は大幅に低下することになるだろう。つまり平壌宣言には、かなり強力な交渉カードが盛り込まれたといっていい。

しかし、先述の西海衛星発射場と同じく、ここにも落とし穴が潜んでいる。何年も前から北朝鮮には寧辺以外にもウラン濃縮施設があるのではないかとみられてきたが、最近になってこうした観測を裏付ける証拠が出てきた。仮に寧辺が閉鎖されたとしても、「カンソン」と呼ばれる別のウラン濃縮施設や、さらにもう1つ存在するとされる「第3の核施設」は動き続ける。

南北にとっては「渾身の一打」だった

寧辺が閉鎖されれば確かに核燃料の蓄積スピードは落ちることになるだろうが、それでも北朝鮮の核兵器は増え続ける可能性があるということだ。

ただ、寧辺にある5メガワット原子炉の廃棄は、北朝鮮のプルトニウム生産縮小につながるため、北朝鮮が生産しうる核兵器の種類と数量は大きく制約されることになるだろう。同原子炉が廃棄されれば、結果的にトリチウムの生産能力も低下することになるからだ(編集注、トリチウムは核融合反応に必須の物質で核兵器の最重要材料)。

この1点をもってしても、アメリカは寧辺核施設の閉鎖提案を真剣に受け止める気になるのではないか。

同施設に対する国際査察の取り扱いは今回明らかにされなかったため、今後の米朝交渉ではこの点が肝になってくる公算が大きい。この種の核施設を閉鎖するのに、国際原子力機関(IAEA)の監督や立ち会いなしに済ませることなどありえないからだ。

以上をまとめるとこうなる。今年3度目となる南北首脳会談で文大統領は大きな成果を上げた。非核化に関して北朝鮮から引き出した2つの譲歩内容には確かに問題もあるが、トランプ大統領をなだめ、停滞してしまった米朝対話を復活させる材料としては、おそらく十分だろう。

文大統領と金委員長の狙いは、アメリカを対話に巻き込み、今年中に終戦宣言を実現することにある。先日の南北首脳会談で出てきた譲歩は、実際には北朝鮮の非核化につながるものではないが、南北にとっては終戦宣言実現という目標にピタリと寄せる渾身の一打だったに違いない。

(文:アンキット・パンダ)

筆者のアンキット・パンダ氏はアメリカ科学者連盟(FAS)の非常勤シニアフェローで、国際安全保障問題の分析を専門とする。アメリカの『ディプロマット』誌、シニアエディター。
「北朝鮮ニュース」 編集部

NK news(北朝鮮ニュース)」は、北朝鮮に焦点を当てた独立した民間ニュースサービス。このサービスは2010年4月に設立され、ワシントンDC、ソウル、ロンドンにスタッフがいる。日本での翻訳・配信は東洋経済オンラインが独占的に行っている(2018年4月〜)。

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