是枝監督が映画「十年」に積極関与した背景 次の映画界担う若手監督が10年後の日本描く
制作にあたり、高松プロデューサーは、「オリジナル作品で勝負すること」「国際共同制作であること」「監督にも利益を還元すること」を目標に掲げたそうで、「香港からも出資を受けることで、海外との共同制作は難しいことではないんだと経験してもらいたかった。そして配給収入の利益を監督にも分配します。これはいくら映画が大ヒットしても、監督にお金が入らないという不条理を変えていきたいという是枝監督の思いもあります」とその意図を語る。
本作の制作費は3500万円で、1本あたり410万円。この費用に関しても独自にタイアップをとることなどはせずに、全員が同じ条件で制作することになった。その代わり、ドローン、カメラ、レンズなどのタイアップを取り、各監督に提供した。残りの制作費は仕上げや音楽の費用に使われた。そして宣伝費3000万円を合わせた合計6500万円が本作の総予算となっている。
今回名を連ねる5人の監督は、純粋にコンペで選ばれた。まずは日本で活躍する若手監督たち声をかけて、30人以上のクリエーターたちから「十年後の日本を20分以内で書いたオリジナルプロット」を提出してもらい、その中から選出されたクリエーターたちと是枝監督が面談。そこから最終的な5人が選ばれた。この5人の中には妻夫木聡主演でスマッシュヒットを記録した『愚行録』の石川慶監督の名も連なっている。
香港のオリジナル版には、中国政府の脅威が、タイ版には軍国主義がモチーフになっていたというが、日本版では高齢化、AI教育、デジタル社会、原発、徴兵制といった多様なモチーフが描かれる。
日本映画界を代表す俳優が趣旨に賛同して出演
その中でも特に「高齢化社会」というトピックは多くのクリエーターの関心を集めたようで、プロット選出時にもそのモチーフのものが数多く寄せられたという。「多くの皆さんがシビアに、切実に考えているのが、原発でも移民問題でもなく、高齢化なんだと思いました。それと香港版のプロデューサーが『10年後はこうなるというつもりで作った映画なのに、現実は3年後に来てしまっている』と言っていた。そうした現実社会の恐ろしさも感じますね」(高松プロデューサー)。
出演者も、杉咲花、國村隼、太賀、池脇千鶴など、日本映画界を代表する俳優陣がそろった。彼らは若手育成、海外共同製作という本プロジェクトの趣旨に賛同し、ほぼ手弁当で参加してくれたという。さらに監修の是枝監督も、5本の作品の選定をはじめ、それぞれの監督の脚本、編集作業などにアドバイスをし、それが作品にもフィードバックされている。「ここのカットはいらないんじゃないかとか、ここはいいねと言ってくれたりした。是枝さんは監督ですから、客観的なアドバイスはするけれど、監督の意思を尊重し、無理強いはしなかった。是枝さんにお願いして良かったと思う点のひとつです」(高松プロデューサー)。
本作のメイン上映館となるのは、商業作品、インディーズ作品問わず、こだわりの作品選定で“邦画の聖地”との呼び声も高いテアトル新宿。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』『キャタピラー』など、故・若松孝二監督作品を上映してきた映画館としても名高い。「若松作品のファンの方がテアトル新宿を聖地としているのがわかっている。そういった客層に支持されているテアトル新宿のお客さまに観てもらいたいと思った」と、高松プロデューサーは狙いを語る。
そうした、メッセージ性を求める、コアな映画ファンも納得できる作品を、若手監督たちが作り上げている。1作品20分弱に込められた、”10年後の日本の行く末”をぜひ垣間見てもらいたい。
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