是枝監督が映画「十年」に積極関与した背景 次の映画界担う若手監督が10年後の日本描く
そんな中で「10年後の香港」をテーマに作られたインディーズ作品を、香港市民が支持。異例のロングランヒットを記録した。
当然ながら中国政府は上映禁止を言い渡したが、香港で権威のある映画賞のひとつである「香港電影金像獎」の最優秀映画賞に選ばれた。一方の中国政府は、この年の「香港電影金像獎」のテレビ・ウェブ中継を禁止するなど、社会的にも話題となった。
『十年 Ten Years Japan』の高松美由紀プロデューサーは、2015年にイタリアの「ウディネ・ファーイースト映画祭」でこの『十年』を観賞、観終わった直後に「日本版の『十年』を作らないと」と、使命感に駆られたという。同時に、東京オリンピック後の日本の姿を若手クリエーターに描いてもらいたいと思い、高松プロデューサーはまず『十年』の製作陣にコンタクトをとった。そして彼らの後押しも得て、日本版『十年』の製作を決意した。
高松プロデューサーの思いに是枝監督が賛同
もともと日本映画の海外セールスを担当していた高松プロデューサーは、常々海外の映画人から「日本に4K(是枝裕和、河瀬直美、黒沢清、北野武)以外の才能はいないのか?」と言われ続けてきたという。だが、新しい才能を見つけるためには育てなくてはいけない。若手を発掘するためにもオムニバス形式で上映する『十年』は打ってつけだった。そして、この企画を実現させるために彼女が相談を持ちかけたのは是枝裕和監督だった。
映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」で、若手クリエーター支援イベント 「Road to the World」を行っていたことや、自身が参加したカンヌ国際映画祭に若手クリエーターを帯同し、世界の映画界の雰囲気を体験させる取り組みをしていることが大きかった。
そんな高松プロデューサーの思いに是枝監督が賛同、本プロジェクトが本格的に前進した。是枝監督自身も「日本の映画は国内に閉じていて、アジアという映画地図の一部である意識が薄い。こういったプロジェクトをきっかけに、作り手の視野を広げられるかもしれない」と、その思いを語っている。
また、日本と同時に、タイ、台湾でも「十年」プロジェクトが進行。特にタイ版には、世界的な評価も高いアピチャッポン・ウィーラセタクン監督も参加、一足先に第71回カンヌ国際映画祭特別招待作品に選出されるなど、世界的なムーブメントとして広がり始めている。
しかし、是枝監督の名前があったとしても、政治的なメッセージのある作品は大手映画会社ではなかなか受け入れられず、資金集めは困難を極めた。そんな中でも、吉本興業、朝日新聞社からの出資を得ることができた。こちらは企業というよりは、企画に賛同した個人の思いが出資につながったという。そこに是枝監督らが立ち上げた制作者集団の分福、香港で「十年」プロジェクトを進めた十年電影工作室、そして高松プロデューサー率いるフリーストーンプロダクションズも出資に加わり、映画づくりがスタートした。
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