日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁
マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます。
お金の出口が増えることによる錯覚が怖い
むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。
現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。
たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。
そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。
家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。
キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います。
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