2本目の電話は、1本目の直後にウェクスラーがアレサ・フランクリン本人にかけたものです。「君をアトランティック・レコードに迎え入れたい。もし君が来てくれるなら、とても光栄に思う。ニューヨークで会えないだろうか」。
2週間後には、アレサ・フランクリンとアトランティックの契約が成立。そして、ウェクスラーの戦略に乗って、早速録音に取り掛かります。場所は、南部アラバマ州のマッスルショールズのスタジオです。ここのスタジオ・ミュージシャンの熱い演奏がアレサの歌手魂に火をつけます。幼少期の歌手への憧れ、教会での信者全員でのゴスペル歌唱の迫力、世界一のレコード会社からのデビューと挫折、そして再チャレンジ。心に去来する思いが歌に乗ります。完成したのが『貴方だけを愛して』です。
心のままに〜アレサをアレサらしく
アトランティックからの第1弾アルバム『貴方だけを愛して』は全米チャート2位、シングル盤「レスペクト」は全米1位を獲得します。アレサの声と歌唱は、彼女の心の赴くまま飛翔します。レコード会社の意向で器用に歌うアレサはここにはいません。アレサ自身が己をさらけ出し心に真っ正直に歌う。聴衆の心をつかむ何かを発見したわけです。ウェクスラーの読みは当たったのです。
「当時の私のアイデアはまったくシンプルで、アレサをアレサらしくさせるということだった……彼女のしたいように、彼女らしく歌わせる、それが彼女の魂と心を開かせる……彼女はそれに応えた」とウェクスラーは述懐しています。
後は、現代の米国音楽史そのものです。
実際、アレサ・フランクリンの業績を記せば、それだけでこのコラムがいっぱいになってしまうほどです。グラミー賞受賞は20回を超えます。米『ローリングストーン』誌の「歴史上最も偉大なシンガー100人」で堂々の首位に選定されました。女性アーティストとして初めての「ロックの殿堂」入りも実現しました。アメリカで最も権威ある大統領自由勲章も授けられました。
最後に興味深いエピソードをひとつ。ビートルズの代表曲「レット・イット・ビー」についてす。実は、ポール・マッカートニーが「この曲はアレサのために書いた曲です」とのメモをつけてデモテープをウェクスラーに送って来ていたのです。確かに、ゴスペル調のこの曲はアレサ向きです。ただし、アレサ側が返事を保留している間に、解散直前のビートルズが先に発表してしまいました。が、結局、アレサも録音。今週の音盤にも収録されてます。
アレサ・フランクリンの声と歌唱にしばし耳を傾けてはいかがでしょうか。時代を超える本物の声と歌唱を実感できるはずです。
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