まぼろしの「博物館動物園駅舎」復活の舞台裏 京成電鉄と東京藝大が21年ぶりに扉を開けた

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東京藝大の伊藤は語る。「これは本当に価値があるものなのかな?と思ったとき、人とのコミュニケーションの中で価値を探ってみると、意外と誰かにとっての思い出の場所だったり、地域にとって大事なものだったり、別の角度からの魅力を見せてもらって、価値に気づく。それがアートの力だったりするのです」。

旧博物館動物園駅の駅舎と復活に尽力した4人(筆者撮影)

今後、旧博物館動物園駅はどんな活動の場となるのだろうか。 秋の公開に向けて内部を改修中だが、外に向けた扉には、日比野のデザインした9つのレリーフが採用されるという。このレリーフには、上野の文化・芸術施設をモチーフとしたデザインが施されている。 閉ざされていた鉄の扉を、いかに外に向けて開いていくか、数々のアイデアが出た。やっていないときも、外に開いている状態にしたい。そこで上野になじみがあるイメージを扉で発信することにした。

上野公園の集積する9つの文化・芸術施設をモチーフにデザインしたものだ。東京藝大の伊藤がマネジャーを務める「Museum Start あいうえの」が親子向けにミュージアム・デビューを促進するプログラムでは缶バッジラリーにも使用され、2018年までに累計1万人以上の子どもが目にしているデザインが扉に刻印される。

新たな文化拠点としての役割

上野恩賜公園から訪れたファミリーが、または谷中から来た観光客が、そのデザインを目にすることによって、新しい上野のランドマークになってくれたらと、皆が目を輝かせる。

「旧博物館動物園駅は、われわれがアート・クロスと呼んでいる交差点に存在するのです」 東京藝大の伊藤が言う。

旧博物館動物園駅の対面に昔の東京音楽学校奏楽堂、藝大側のへりには黒田記念館、そしてもう少しでオープンする国際藝術リソースセンター(IRCA)という芸術の重要な拠点が連なる交差点だ。単なる上野恩賜公園の隅ではなく、谷根千(谷中、根津、千駄木)、日暮里方面と上野公園をつなぐポイントとなり、新たな文化拠点としての役割を期待したい、と続ける。

京成電鉄の伊藤も語る。「上野は成田空港とスカイライナーでつないでいる東京の玄関口です。海外から来たお客さまが成田空港からまずはスカイライナーに乗って上野から東京の旅をスタートする、その扉となりたいのです」。2020年のオリンピックパラリンピック開催に向けて、日本へのインバウンドが大きく見込まれる昨今、外国人観光客の好むほかの街とは一味違うクラシカルな文化的イメージを、旧博物館動物園駅が少しでも担っていけたらと思っているという。

旧博物館動物園駅は、駅としての役割は終わったが、今度は新しい文化を創る場として、再出発させたい。そんな思いを抱いている。 鉄道会社と芸術大学。この2つの思いがクロスすることによって、20年間閉ざされていた門が今、開こうとしている。秋の本格始動が楽しみでならない。(文中敬称略)

さとう ようこ ライター、宣伝プランナー

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Yoko Sato

美術大学卒業後、クルマ会社のハウスエージェンシーにて広告宣伝・販売促進のクリエイティブディレクターを務める。転職した広告代理店に勤務していたときに担当していたゲーム会社から受託し、シナリオライターに。その後、顧問として家庭用ゲームソフトの広告ディレクターおよびコピーライターとなる。現在はゲーム会社出身のママ友に誘われ、エンターテインメント系デザインプロダクションにライター&プランナーとして参加している。

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