まぼろしの「博物館動物園駅舎」復活の舞台裏 京成電鉄と東京藝大が21年ぶりに扉を開けた

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東京藝大の伊藤が後を続ける。「折も折、私たちも2020年オリンピックパラリンピック開催に向けて、上野を文化藝術の拠点にしていきたい、そんな思いで、文化庁や東京藝大などが発起人となって、『上野〈文化の杜〉新構想推進会議』を立ち上げていたのです。そのような時にいただいたお話に対し、当校美術学部長の日比野克彦から旧博物館動物園駅の改修と活用も行ってはどうかと、逆提案がありました」。

ぜひ、京成上野駅だけではなく上野恩賜公園を中心とした上野の山エリア全体の魅力向上にかかわってほしい。京成電鉄の文化資源である「旧博物館動物園駅」を活用して新構想に連動させていきたい。東京藝大の伊藤は京成電鉄の伊藤にそんな思いをぶつけたという。

歴史的建造物の扱いは一筋縄でいかない

そこから2人の伊藤のキャッチボールが始まった。 一度は休止、そして廃止され、今では避難用施設になっている駅施設をもう一度、復活させるのは大ごとである。さらに歴史的建造物の扱いは難しい。何か動かそうとしたら、大きく動いてしまう。線路は通っている。駅舎も現存している。しかし、どうも一筋縄でいかない気がする。

京成の伊藤は考えた。 鉄道会社は、駅を造り電車を走らせ、お客様を輸送するだけではなく、沿線のお客様が豊かな生活を送れるような文化を創っていくことも使命なのではないか。旧博物館動物園駅の活用、これは、やるべきだ。

当時の時刻表(編集部撮影)

2人はとにかく具体的なプランを考えることにした。まずは、必ずしも実現できるわけではないが、こんな可能性も秘めているという想定プランのやり取りを何度もした。そして、自治体との協議、京成電鉄は安全面の検証……。その中でお互いの中でイメージが共有でき始めた。担当者とのやり取りの中でこのようなイメージの共有はとても大切だと東京藝大の伊藤は言う。「この共有ができないと話が頓挫することが多い。ほとんどの話が消えるタイミングというのは、そういうことが多いと思う。具体性が見えないから話が消えてしまう」。

そんな時間を経て、出来上がった旧博物館動物園駅の具体的なプランを京成電鉄社内でプレゼンした。社内から「こんなことができるのか」と、どよめく声も上がった。そして内部を見学した日比野の口から出た言葉「熟成されたワインのような駅」にも背中を押してもらい「(日比野さんに)そこまでおっしゃっていただけるなら、何かしらできることをやっていこうじゃないか!」と、ついに会社からGO!が出た。

営業休止直前に利用を惜しんで書いたとみられる利用者の落書き(編集部撮影)

そして、2014年6月26日、東京藝大と連携協力に関する包括連携協定を結ぶ。藝大の丸山がうれしそうに教えてくれた。「東京藝大が企業と包括連携協定を結ぶのは初めてなのです」。

京成電鉄は沿線エリア東京千葉茨城の魅力向上を図るため、東京藝大のアートの力を借り、そして東京藝大はアートの実践の場として活用する。 固く閉ざされていた駅舎の「扉」を開いたのは、アートという「鍵」であった。

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