日本人から思考を奪う「国体の正体」とは何か 隷属状態からの脱出が日本の最重要課題だ

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國分:いまの問題に関しては『国体論』の中に1つの答えが出ていて、白井君はそれを「奴隷」という言葉で表しています。ニーチェが言ったように、奴隷は自らが奴隷であることを否認し、自分の現状をすばらしいものだと思い込んでいる。そして、「お前は奴隷なんだぞ」と言ってくる自由人たちを誹謗中傷し、自分の惨めな境遇を押し付けようとする。

この奴隷根性に関して非常にショッキングなのは、白井君の本によく出てくるアメリカの元国務長官、ジョン・フォスター・ダレスの分析です。ダレスは日本について、日本人は欧米人に対するコンプレックスと同時にアジア人に対するレイシズムを持っており、この2つをうまく利用すれば日本を支配できる、と言った。

実際、日本はそれをうまく利用され、支配されてきました。戦後の日本がアメリカの支配の中で受け取った価値観は、自由主義でも民主主義でもなく、結局のところ近隣のアジア諸国を差別する権利だったわけです。こうしたコンプレックスの中にいるかぎり、日本の奴隷根性がなくなるはずがない。

これに対して、「共産党はろくでもないけど共産党しかない」と言っている中国には、奴隷根性はないわけですね。そこが「自民党しかない」と言っている日本との違いだと思います。中国の学生たちを見ていても、彼らには奴隷根性はないでしょう。

『国体論』の先にある日本にとって重要な課題

白井:そう思いますね。中国の学生たちが会社に就職したあとにまず何を考えるかというと、どうやってその会社を辞めて独立するかということですからね。

『国体論 菊と星条旗』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

最初の問いに戻れば、支配されているという事実、日本の状況がどんどん悪くなっているという事実から目を背けている奴隷根性が、安倍政権を支えている。

國分:この奴隷根性から脱出することが日本にとって重要な課題であり、『国体論』のひとつの課題でもあったと思います。ただその際、奴隷根性から脱出したあとの姿があまりイメージできないということも事実です。

僕は『国体論』を読み、その問題意識に強く共感すると同時に、奴隷根性から脱した先のことを具体的に考えていく必要があると思いました。この問題は今後も白井君と一緒に考えていきたいと思っています。

白井:まずは「国体」のもと、支配されていることを否認するという病癖に日本人が気づくことから始めるしかないでしょう。

(構成:中村友哉)

白井 聡 政治学者、京都精華大学教員

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しらい さとし / Satoshi Shirai

1977年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。3.11を基点に日本現代史を論じた『永続敗戦論 戦後日本の核心』(太田出版、2013年)により、第35回石橋湛山賞、第12回角川財団学芸賞などを受賞。その他の著書に『国体論 菊と星条旗』(集英社新書、2018年)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社、2020年)などがある。

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國分 功一郎 東京大学大学院総合文化研究科准教授

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こくぶん こういちろう / Koichiro Kokubun

1974年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専攻は哲学。東京大学大学院総合文化研究科准教授。おもな著作に『中動態の世界』(医学書院、小林秀雄賞受賞)など。

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