不偏不党と視聴者視点の経営理念以外は全部変える--福地茂雄・日本放送協会会長

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--そういった土壌をどう変えていくのでしょうか。

組織風土の改革については、経営計画で私がかなり踏み込んでつくりました。NHKに来て最初にしたのは、理事に個室をやめて大部屋にしてもらうこと。今は経営陣のコミュニケーションがものすごくいいですよ。

ただ、組織の中で縦が強いのは当然ですが、横軸が入ったらもっと強くなる。そこで次は人事異動ということで今年6月の異動は極力それを意識した。NHKに来て早々だったので、管理職のうち、部局を超えた異動はわずか20%しかできなかったが、来年は30~35%に増やします。それから管理職になる前に部局を横断するキャリアの複線化も進めます。

あとは、経営計画を達成するための若手プロジェクトを立ち上げるつもりです。現場で、仕事の歯車がきちんと合っているかをチェックして、トップに提言してもらう。

トップの声がどこまで現場に届くかも重要です。4月から会長からのメッセージということで、社内のイントラネットで動画配信をやっている。あと、私が現場に出て行く。全国54放送局のうち23は回りましたが、年度末までに全部回れないかと思っています。現場に行くといいですよ。実態がよくわかってね。

NHKには共通する目標がない

--ただ、福地さんが会長に就任してからも、懲戒処分者の子会社での雇用など問題が発覚しています。もっと大手術が必要なのでは。

もちろん、トップの指示が明快じゃないとダメです。トップが妥協を許さない。ただ、今の時代は新幹線経営。昔はデゴイチが車両を引っ張っていったけど、今は各車両が動く。とりわけ中間管理職がトップの指示を咀嚼(そしゃく)する能力がないといけない。

トップの言葉は、いくら具体的に言ってもやっぱり抽象的ですよ。現場から見たら咀嚼が必要です。ただ指揮命令を早めるために、咀嚼の回数は少ないほうがいい。たとえば、ある部局では、局長の下に局次長……と9とか11とかポストがあった。決裁時に必ず九つハンコをもらうわけじゃないが、みんなに話さないといけないから、伝達に時間がかかる。私は起案者と責任者のハンコだけでいいと思う。それで決裁のスピードを上げていったらいい。

--福地さんはいつも「変える勇気と変えない勇気」と言っていますが、変えるもの、変えないものとは具体的に何でしょうか。

私は、NHKの経営理念以外は全部変える。経営理念というのは不偏不党と視聴者満足。私はアサヒビール時代から「お客様満足、お客様視点」と言ってきた。今はそれを視聴者満足、視聴者視点という言葉に置き換えただけで、やろうとしていることはまったく同じです。

NHKと視聴者は放送の内容でつながっている。接点となる放送品質をどれだけ上げられるか。ただし、それは間違っても視聴率ではない。今年度上半期はゴールデンタイムの視聴率トップになりましたが、それは正確で速い報道があったから。必要なことだけを伝えたオリンピック放送が支持された。「篤姫」なども支えてくれた。事実をきちんと報道するという王道を歩いた結果なのです。いくら改革しても、作品がよくなかったら、やっぱりダメですよ。

そして、報道を支えているのは超高感度カメラなどの技術であり、逆風の中、収入確保へ頑張ってくれた営業です。今、こうしたものがいい回転をしてきている。それをさらにうまく回すのが私の仕事です。

--経営計画が終了する3年後、NHKはどう変わっていますか。

日本的な言葉でいけば、横のコミュニケーションで風通しのよい職場になっていると思います。それと、アサヒビールから来ていちばんに感じたのは、NHKはみんなに共通する目標がない。そこで、経営計画の核になる接触者率80%を掲げた。1週間で5分以上、NHKを視聴してくれる人を80%、受信料の支払率は5年後に78%にする。これを達成するには、放送に携わる人は、いい番組をつくらないといけない。そうでない人も「この番組を見てください」って周りに宣伝することで参加できる。これらの計画はコミットメントとして、やりきりますよ。

ふくち・しげお
福岡県出身。1934年生まれの74歳。1957年長崎大学経済学部卒業、アサヒビール入社。営業部長や大阪支社長などを経て99年社長、2002年会長、06年相談役に就任。08年1月NHK会長。

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