派手なメッキグリルのクルマが流行する理由 ミニバンや軽自動車の売れ筋に感じる危うさ

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その一方では、高めの着座位置による周囲を「見降ろす」感覚が、心理的には周囲の人やクルマを「見下す」感覚につながる場合がある。厚みのあるフロントマスクに貼り付けられたメッキグリルも、ドライバーの気分を無意識の内に尊大にすることがあるだろう。

クルマのデザインと安全の関係

以前、ヴェルファイアのCMで「偉い人間より、強い人間になりたい。その高級車は、強い。」というキャッチコピーがあった。これは「見下す尊大な気分」を肯定して助長するようなものだ。個人的には恐ろしいと思った。

クルマは単なる移動のツールにすぎないが、人間の使い方次第で、安全かつ快適な移動をもたらしたり、凶器にもなりえたりする。

そして、人が一体になれるツールでもある。たとえば裏道を走っているとき、前方に路上駐車の車両があったとする。ドライバーは直感的に「ドアミラーを格納すれば通り抜けられる」といった判断をする。このときには、ドライバーの肩幅が車両の全幅まで拡大されている。クルマの運転とは「体力が大幅に増強された自分の体を操ること」でもあるわけだ。

だとすればクルマの運転には、頭脳だけではなく感情が大きな影響を与える。「強い人間になりたい。その高級車は強い」のだとすれば、クルマの造り方次第で、強引な運転を招きかねない。

今の車両開発には、心理学も深くかかわるが、メーカーは大型のメッキグリルがドライバーの心理に与える影響などを研究していないのだろうか。クルマがドライバーの一体感を呼び覚ますツールである以上、「ナイフは使い方次第で凶器にもなります」といった、ユーザーにすべてを委ねる無責任は通用しないはずだ。クルマを本当に安全にしたいなら、ミニバンやSUVの見降ろし感覚まで含めて、車両のデザインを抜本的に見直すことを考えてもいいのではないかと思う。

ちなみに今の車両は全般的にサイドウインドーの下端が高く、後方に向けて持ち上げたボディ形状が多い。後端のピラー(天井を支える柱)も太く、側方と後方の視界が悪化している。

またミニバンやSUVのように視線の高いボディでは、遠方の見晴らしが利く半面、右ハンドル車では左側面の死角が大きい。背の低い障害物を見落としやすく、「高級車は強い」のだとすれば、弱い相手に対する手厚い配慮が求められる。

極論すれば、見下す視線や強く見せるメッキグリルは、メーカーが安全を本気で考えていない表れともいえるだろう。メルセデスベンツの過度に大きなエンブレム、アウディなどに見られる口を大きく開けて威嚇するようなグリルも同様だ。

メーカーの開発者からは「日本でも海外でも、フロントマスクを目立つ強いデザインにしないと販売面で不利になる」という話を聞くが、これは弱肉強食の発想で、安全に対する配慮が欠落している。「ほかのメーカーもやっているから」という付和雷同で、クルマは互いに相手を蹴散らし、その間を歩行者が往来する状態に陥っている。メッキグリルの流行は、心理的な考察を含めて、もっと幅広い見地から、クルマのデザインと安全の関係を考えたほうがいいことを示唆していないだろうか。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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