「名ばかり産業医」がマイナスでしかない理由 おカネを出して選任するメリットを考えよう

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産業医制度はかたちばかりの無意味な制度なのかというと、そうではありません。

冒頭で紹介したA社のような良い事例はあります。A社ももともと嘱託産業医はいましたが、高ストレス者との面談などは行っておらず、社内的には「ストレスがかかる仕事だから、メンタル不調が出るのもやむを得ない」といったムードが蔓延していたそうです。

それを、嘱託産業医の月1回職場訪問の時間を活用することで、人事が社員についての情報を提供し、産業医はそれを受けて医師の視点からアドバイスをするという、人事と産業医の効果的な連携が奏功したといえるでしょう。

「名ばかり産業医」ではなく、実働のある産業医を選任することは企業の重要な経営戦略の1つなのです。

従業員の健康と企業の生産性

おカネを出して選任しても意味がない、効果がないから「名ばかり」でいい。そんな企業の本音もあるのかもしれません。

産業医を選任するコストは、一般的な嘱託産業医業務であれば、おおむね月1回、1~2時間の訪問で年間40万~100万円がほとんど。一方で、従業員の健康度が上がると、一人あたり30万円もの損失削減につながるといわれています。この数値は、経済産業省が「健康経営の推進に向けた取組」で分析した健康経営の生産性などへのインパクトで示されました。

これは健康関連リスクとして、「身体的リスク」「生活習慣リスク」「心理的リスク」の3種を挙げ、それぞれ次のような因子と従業員の欠勤による損失、日々の生産性損失、医療費がどのように関連するかを示しています。

・身体的リスク(血圧、血中脂質、肥満、血糖値、既往歴)

・生活習慣リスク(喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、睡眠・休養)

・心理的リスク(主観的健康感、生活満足度、仕事満足度、ストレス)

身体的リスク因子のなかで病気の既往歴のある人は、ない人に比べて欠勤による損失が1.6日多く、医療費も年間13.7万円も高くなっていました。生活習慣リスクでは特に睡眠・休養の影響が大きく、睡眠・休養のリスクの高い人は、そうでない人に比べて欠勤による損失が0.7日多く、日々の生産性損失が32.9万円にも上っていました。

さらに心理的リスクの各因子は、身体的リスクや生活習慣リスクに比べ、欠勤による損失も日々の生産性損失も大きな相関が見られました。なかでも目立つのが日々の生産性損失で、リスクのある人とない人の損失の差は、主観的健康感で110.5万円、生活満足度で46万円、仕事満足度で71万円、ストレスで41.5万円と、大差になっていました。

『企業にはびこる 名ばかり産業医』(幻冬舎)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

総じて、各リスク因子に該当する数が多いほど、欠勤による損失も日々の生産性損失も高くなっていました。そして健康リスクの低い人の損失額は年間60万円程度なのに対し、健康リスクの高い人の損失は90 万円ほどに上ることがわかったのです。

法律を守るためだけに産業医を選任すると考えると無駄なコストですが、社員の健康度が上がり、企業の生産性向上につながるのであれば「安い投資」と言えるのではないでしょうか。

産業医を選任し、産業医と人事労務担当とが連携して働く人の健康対策に取り組むようになると、その企業の「労働生産性向上」「リスクヘッジ」「医療費削減」につながります。ただ、法律を守る義務としてのみとらえるのをやめ、意味のある産業保健活動に取り組む企業が増えることを願っています。

鈴木 友紀夫 エムステージ執行取締役

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すずき ゆきお / Yukio Suzuki

1966年生まれ、福島県出身。東京理科大学にて応用微生物学を専攻。医師の人材サービス大手に所属後、エムステージの立ち上げに参画して今に至る。現在は産業医事業部にて、労働者の健康を守るため、そして医師の新たな働き方を提案するために奔走している。

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