「老親は子が養うべき」という風潮にモノ申す 適度な距離を保たないと家族みんなが苦しむ

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医療費や年金と並んで、介護もいまや社会問題となっている。「介護離職」という言葉ができ、厚生労働省の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、「介護・看護の理由による離職者数」は2015年で約9万0100人となっている。うち、女性は約6万6700人で、全体の74%にあたる。日本という国は、一億総活躍社会を標榜し、女性の社会進出推進を目指しながら、実際は女性に介護の負担を強いているのだ。

また、介護による労働力の損失は社会全体の負担になっている。慶應義塾大学医学部と厚生労働省が行った推計では、認知症の社会的負担は年間14兆5000億円で、そのうち介護負担は44%にあたる6兆4000億円を占めているという。介護離職による貧困や、介護を苦にした心中事件などのニュースも後を絶たない。

日本の介護保険制度は2000年に、「高齢者は社会が世話をする」という理念のもとにはじまった。しかし、国庫負担の急激な増加のため、徐々にサービスが制限されていった。現在は在宅介護を促す方向に制度が変更され、「家庭と介護を切り離す」という理念の形骸化が批判されている。2015年の介護保険法改正では「地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化」が方針として策定され、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)について、在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える機能に重点化することや、一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引き上げることなどが決められた。

このような社会制度は、早急に見直さなければならないと私は思う。しかし、それをただ待っているわけにはいかない。まずは介護されない人生を目指して、仕事をして健康を維持し、子どもの迷惑にならないよう稼ぐことである。

親子関係は少し疎遠なほうがいい

一方で、親として子どもの面倒はみなければならない。子どもが頼ってきたら世話をするのが親の務めであり、自然界の生き物もそれは同じだ。理想をいえば、家族は少しくらい疎遠なほうがいい。少なくとも、子どもが独立して離れていったのに、親のほうから「遊びに来い」「孫の顔を見せに来い」などと介入するのはよくない。子どもが親のもとから離れていくのは自然なことなのだと悟り、必要以上に世話を焼くのは避けたほうが賢明だろう。

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私の知人で横浜に家を買った人がいる。ところが隣の土地が空いて、そこに親が引っ越してきてしまった。仕方なく親に合鍵を渡したら、留守中でも勝手に家に入ってきてあれこれ世話を焼き、困っているとこぼしていた。「老後の面倒をみることを期待されているようで、すごく嫌だ」と彼は言っている。親としてはいつまでも子どもは子どもという気持ちだろうが、子どもの側からすれば「ありがた迷惑」だろう。

親を子が養うという儒教的な考え方がある東アジアと違って、欧米では、高齢者は社会が面倒をみるという社会構造になっている。高齢者用の住宅もあり、親は高齢になっても子どもとは別れて暮らすのがふつうだ。それで親子関係が疎遠になるかといえば、そんなことはない。クリスマスや誕生日などにはみんなで集まって楽しいひとときを過ごすし、病気など困ったときにはどんなに離れていても駆けつけてくる。

やはり子どもや孫とは適度な距離を保ち、お互いに自立するのがいちばんいい。そのためには早めに人生設計をして、定年後も仕事をしながら楽しく生きることである。

郡山 史郎 CEAFOM代表

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こおりやま しろう / Shiro Koriyama

1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、1959年ソニー入社。1973年米国のシンガー社に転職後、1981年ソニーに再入社、1985年取締役、1990年常務取締役、1995年ソニーPCL社長、2000年同社会長、2002年ソニー顧問を歴任。2004年、プロ経営幹部の派遣・紹介をおこなう株式会社CEAFOMを設立し、代表取締役に就任。人材紹介のプロとして、これまでに3000人以上の転職・再就職をサポート。

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