アマゾンをも阻むブラジル「貨物強盗」の猛威 2つの州だけで年間2万2000件の貨物強盗
3月のある週末、ブラスプレスの警護センターは午後2時ごろ、その連絡を受けた。リオデジャネイロ北部の交通の激しい幹線道路で、衣料品を運んでいたトラックが窃盗団によって停車させられた、と同社警備員が、現場から無線で支援を求めてきた。
「トラックを妨害された」──。ブラスプレスがロイターに提供した録音記録の中で、警備員はそう叫んでいた。「2台の乗用車が行く手を阻んでいる。彼らは重武装だ」
マーリン氏のチームは遠隔操作でトラックのエンジン点火装置を切り、窃盗団は逃走した。運転手と2人の警備員は無事だった。
だが戦いは決して終らない、と語るマーリン氏。55歳の頑健な同は、サンパウロの治安の悪い地域パトロールからキャリアをスタートした。彼の警備センターで行われた取材の最中にも、違うトラックからリオデジャネイロ州で襲撃が発生したとの連絡が入った。
過去最悪を更新する勢いで増加
ブラジルの貨物強盗は今年、過去最悪を更新する勢いで増加している。同国南東部の道路は、こうした強盗事件の多発を理由に、保険業界が5月発表した「世界で最も危険な道路」ランキングで第8位に選ばれた。これは、戦争で荒廃したイラクよりも危険度が高い。
強盗事件の増加は組織的な犯罪集団に原因があると物流や小売業界の幹部は指摘する。特に問題なのがリオデジャネイロ州で、麻薬犯罪組織の摘発のために軍が介入したが、無法状態に歯止めをかけるという点では、ほとんど役に立たなかったという。
リオデジャネイロ州で恐れられている麻薬犯罪組織「レッド・コマンド」は、警察官を買収したり、輸送情報を入手するために民間企業に内通者を潜入させたりしている。このため、かつては平凡な路上犯罪だった貨物強盗が高度化している、と物流の専門家は警戒する。
「貨物強盗は麻薬密輸と同じくらい稼ぎになる」。チリのセンコスッド傘下で、リオデジャネイロに本拠を置く食料品チェーンのプレズニックで物流部門を率いるアウレリオ・プロメッティ氏はそう語る。
同社トラックへの襲撃は2015年から2016年にかけて4倍に急増した、とプロメッティ氏は言う。
貨物強盗による損失を正確に測る指標は入手困難だ。全国規模の貨物取引グループNTC&ロジスティカは、2016年に13億6000レアル(約400億円)の損失が生じたと試算するが、実際の損失は、恐らくはるかに高い。