東芝、最高益更新でも見えない「再建の道筋」 宙に浮くメモリ売却、他の事業は課題多い

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

2019年3月期の会社予想は売上高3兆6000億円(前期比8.8%減)、営業利益700億円(同9.3%増)。東芝メモリの売却益9700億円を計上する前提で、純利益は1兆0700億円と連続最高益を見込む。このシナリオに沿えば、2019年3月末の株主資本は1兆8700億円となり、同比率は42.5%と財務体質の優等生になる。

もっとも肝心の東芝メモリの売却完了時期が見えてこない。

昨年9月の譲渡契約締結から各国で独占禁止法の審査をクリアしてきた。しかし中国当局の認可だけが下りていない状況が続いている。「売却方針に変更はない」と車谷暢昭会長は強調したが、売却の行方は霧がかかっている。

「中国当局からは具体的な問題点の指摘は何もなく、手を打とうにも打てない」(関係者)。中国の制度上、審査は5月28日が一定の期限となる。この日を超えると、売却が中止となる可能性がある。

難しい「Nextプラン」の作成

ただし、売却断念は東芝にとって悪い話ではないのかもしれない。メモリ以外の事業の収益性改善や成長がおぼつかないためだ。

この日、東芝は「東芝Nextプラン」と名付けた中期経営計画を年内に公表すると発表。基本はメモリ事業がなくなる前提で、基礎収益力の強化や成長事業の育成を打ち出した。

「東芝Nextプラン」の方向性を話す車谷会長(撮影:尾形文繁)

前者について、車谷会長は「一番早いのは一般経費(の削減)。調達費の見直しも進める」と強調する。後者については「リカーリングモデル(継続的な収入モデル)」「デジタルトランスフォーメーション(AIやIoTを活用した事業)」といった方向性も示した。

だが、個別事業は課題が多い。火力発電事業は世界的な市場縮小で米GEや独シーメンスといった巨人でさえリストラに追われている。インフラ事業の利益率は3%と低く、パソコンなど赤字事業も残る。そうした中で、2018年3月期に利益率4割をたたき出したメモリ事業が売れなければ、むしろそのほうがいいという見方は当然ありうる。

一方で、記者はこれまでも書いてきたが、東芝メモリはできるだけ早く独立させたほうがベターと考えている。巨額投資を臨機応変に実行していくには、メモリを売却しない前提の東芝の財務体質では難しい。シリコンサイクルがなくなったといわれるが、リーマンショックのような需要の谷が来てメモリ事業が巨額赤字に沈めば、今度こそ東芝が深刻な危機に陥る。そして圧倒的なメモリ事業の利益が残ることで、東芝の本社や他の事業部に甘えが生まれる懸念もある。

いずれにしろ、東芝メモリの売却が決着しないことには本当のNextプランは作成しようがない。しばらくは宙ぶらりんな状況が続きそうだ。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事