日本人が知らない「中国製自動車」の超速進化 日本からも技術者引き抜き水準を上げている
そのかわり、料金は安い。空港から市内までの22kmで70元(1300円)弱だから、日本の5分の1くらいか。飲食店の価格やその他の物価と比較しても相対的にあまりに安い。これでは始終腹が立つのも、節約のためエアコンをつけたくないのも理解はできる。タクシーから降りた自分からはホコリのにおいがする。それにあの運転であの安普請なクルマでは身の危険も感じるし、モーターショーの朝は会場付近が大渋滞するそうなので、安全策をとって地下鉄で向かった。
こちらは日本の地下鉄ほど明るく清潔ではないにせよ、パリやニューヨークと比較すれば大差はないし、本数も頻繁に出ている。独特なのは並んで乗車する瞬間で、みなドアが開いたとたん、躊躇なく左右から車内へ突入していく。降りる客は開くドア中央のわずかな間隙をすり抜ける。
悠長に座っていれば降りそこなうのは確実で、だから目的地の手前から「さあ降りるぞ」と緊張感を持って席を立たなければならない。地下鉄では空港ほど厳重ではないにせよ、X線を使った荷物検査を実施しているので、ラッシュ時には主要駅の入り口では鉄格子で乗客の流入数を制限していた。
地下鉄で移動する人、駅ビルで飲食している人々には若い世代が多く、彼らはみな清潔で今風の格好をしている。そんな彼らがそういう具合に依然殺伐とした北京の交通事情に身をおけば、「マイカー」には自分の空間、そして自分の安全を確保するため、できるだけ品質の高いものを求めたいという志向になるのは自然のことだろう。
めざましい勢いでクオリティを獲得している中国車
10年ほど前、筆者がデトロイトの自動車ショーで初めて中国製自動車なるものを見たとき、これはミニカーをそのまま拡大したようなクオリティだと思ったものだ。“先進国”のそれと比べると、素材も精度もデザインも大幅に劣る。
しかし、彼らはあきらめていなかった。その後ほどなくして、イタリアのカロッツェリアの首脳格など、有名なデザイナーがしょっちゅう中国に出張しているとか、日本で定年を迎えた生産や機械の技術者を破格の待遇で迎え入れて技術指導に当たらせているという話を聞くようになった。
「そんな試みがはたして機能するんだろうか?」と筆者は疑っていたものだが、今年の北京ショーに姿を現した中国車たちを見れば、めざましい勢いでクオリティを獲得しているのは明らかだ。
とりわけ進境著しいのはSUVに特化してプレミアムを標榜する「WEY」「HAVAL」「LYNK&CO」「NIO」といったブランドで、コンパクトカーに比べて制約の少ない中で自由で新しいデザインを身に付けてきている。先に述べたイタリアの老舗デザインハウスだけでなく、大手の自動車メーカーからもデザイナーの中国流出―カリフォルニアやヨーロッパにデザインスタジオを設ける中国メーカーもある―が始まっているのだ。
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