米国の長期金利上昇とドル高は続くのか 今の米国経済に「3%の長期金利」は重すぎる

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米国10年金利の上昇に伴い為替市場、特にドル円相場においては日米金利差「3%ポイント」という水準が注目されるようになる。この点については約1カ月前、麻生財務相が「これまでの長い数十年間の歴史をみると、(日米の)金利差が3%ならドル高円安に振れる(ロイター、3月29日付)」との経験則を紹介したことが話題となった。確かに、変動相場制移行後、日米10年金利差が「3%」を突破している局面ではドル円相場が堅調さを示している。

しかし、経済の地力が変化していれば、「今の3%」と「過去の3%」は意味が異なってくる。たとえばFRBの想定する中立金利(景気を熱しも冷ましもしない金利)は2013年6月時点では「4.00%」だったが、2018年3月時点では「2.90%」である。中立金利の水準が約5年で1.1%ポイントも押し下げられたのは、それだけ潜在成長率が低くなったことだと解釈できる(この点、CBOの推計は右肩上がりであり、イメージが異なる)。そして約5年前の米国10年金利は2.5%弱であった。当時と比較すると、想定している中立金利は1.1%低いが米国10年金利は約0.5%ポイントも高いのである。素直に考えれば、ここから連続的な利上げを重ねていった場合の経済の耐久力に懸念を持つのは当然ではないだろうか。

つまり、日米金利差「3%ポイント」をもたらすほど米国10年金利が上昇した際、過去と同様の堅調さを米国が維持できる保証はなく、だからこそ株式市場がネガティブに反応し始めたのだろう。株式市場がネガティブに反応しているとき、ドル円相場は普通上がらないものだ。

「ビハインド ザ カーブ」ではなく「オーバーキル」

もちろん、今のFRBの正常化プロセスが実は完全に「ビハインド ザ カーブ」、つまり景気上昇に対して遅れていて、ここから先、物価が急騰するのであれば米国10年金利の3%は通過点に過ぎない。その場合、この先3%といわず、3.5%や4%を目指すかもしれない。しかし、今の債券市場はまったく反対の心配をしている。

昨年から続いている米国のイールドカーブのフラット化(長短金利差が縮小する)の傾向は今年に入ってからもたいして変わっていない。2月の金利上昇局面で持ち直しが見られたように見えたが、結局、フラット化の度合いは3月に入り強まってしまった。要するに、債券市場がFRBについて心配しているのはビハインドザカーブではなく「オーバーキル」、景気を引き締めすぎてしまうことなのである。

過去、米国経済の減速ないし後退をもっとも正確に予見してきたシグナルはイールドカーブのフラット化、究極的には逆イールド化(長期金利が短期金利よりも低くなってしまうこと)である。世界で最も多様かつ多額の資金が集まる米国債市場が発するアラームに基づけば、先行きについては米国経済の失速に伴う正常化路線の頓挫、結果としての米国金利低下やこれに付随するドル安(円高)に備えておくのが適切だという筆者の考えに変わりはない。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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